Pablo Neruda 「チリ革命への賛歌」

ここでは、「Pablo Neruda 「チリ革命への賛歌」」 に関する記事を紹介しています。
千曲川

大島博光記念館へようこそ。
長野詩人会議が中心となって建設運動をすすめ、2008年7月にオープンしました。
愛と抵抗を歌った博光の詩の世界にふれていただけます。


 あいつを

兇悪犯よ おれは おまえを告発して
おまえを裁く人たちに 引き渡してやる
おまえを裁く 貧乏なひとたちの手に

きのう 焼き殺された 死者たちの手に
もう ものも言えず かくす秘密もなく
めくらで 眼も見えず すっ裸かで
腕をもがれ 脚をきられ 傷だらけで
令状なんか なくともニクソンよ
おまえを 裁き罰する 人たちの手に
おれはおまえを 引き渡してやる

(「ニクソンサイドのすすめとチリ革命への賛歌」)

 まえがき   El prologo

 ここに、書かれたばかりの一冊の本がある。この本は、古今の死んだ詩人たち、および現存の詩人たちを動員して、冷酷で気ちがいじみた皆殺し(ジェノサイド)作戦を、歴史の壁に刻みこむのである。
 この本のなかには、皆殺し(ジェノサイド)作戦の中止勧告と、判決と、それの可能な最終的消滅とが、相ついで現われてくる。こんど始めて用いられた詩的砲撃の効果のもとに。

 歴史は、詩がひとをたたきのめすことができることを証明した。わたしもまた、そうするために詩を援用する。それだけのことだ。

 ニクソンは、人類にたいする叛逆行為において、あらゆる先任者たちの罪業を蓄積している。休戦条約の協定後に、かれが世界史上もっとも残酷な、もっとも破壊的な、もっとも卑劣な爆撃を命令したとき、それは頂点に達した。

 ただ詩人たちだけが、かれを壁にはりつけ、痛烈で致命的な詩句によってかれを穴だらけにすることができる。詩の義務は、韻律と脚韻の砲撃によって、かれをぼろくそにうちのめすことである。

 かれはまた、チリ革命を孤立化させ、崩壊させるために、経済封鎖にも干渉した。

 そのために、かれは、種々の手下や、I.T.Tのスパイ網のような、公然たるスパイたちを使い、また一方では、チリを裏切ったチリ人ファシストどものなかの、もっとも陰険なもの、腹黒いもの、挑発者などをも使った。

 このように、この詩集の長い題名は、世界の現情勢と近い過去とを反映しておどおり、そしてありがたいことに! われわれが、敵による脅しと苦しみの光景として、あとに残すであろうものをも、反映しているのである。わたしは、テロリズムにたいしては、断乎たる反対者である。それはほとんどつねに、無責任な卑劣さと、名づけようもない残酷さとによって行なわれるという理由からだけではなく、それらの結果は、ブーメランのようにもどってきて、それについて何も知らない民衆を傷つけるからである。

 しかしながら、わが国の状況、われわれの政治的「平和」にしばしば黒い影をおとした怖るべき行動は、わたしの心を傾倒させた。シュナイダー将軍の暗殺者どもは、相変らず、りっぱな牢獄のなかや、外国の豪奢なホテルで暮らしているのである。

 ある不正な裁判官たちは、それら暗殺者どもの刑罰を、まるでたった雌鶏一羽を盗んだものを罰するような、そんな軽い刑罰にひき下げたのである。判事と呼ばれる連中が、これほどにも破廉恥になりうるとは、信じがたい。

 この文章をよんで、ひとは顔をしかめて言うだろう。わたしは司法官を侮辱していると。いや、ちがうのだ! すべての人間的な規律、とりわけ、ひとを裁くという微妙な行為は、わたしには、なみなみならぬ尊敬にあたいするものに見える。しかし、わたしはさらにこう考える。法廷でおこなわれる「不義不正」、──「公明正大」であるべき人びとのおこなう「不義不正」は、健全な理性をうたがわせるに足る、きわめて重大なものである。

 わたしはここでまた、ほかの問題とほかの人物たちのことを明らかにしておこう。わたしは、ある人びとと面識もあり、尊敬もしていた。ところが、チリに帰ってきてみると、それらの人びとがゲームのルールにすっかりそむいていることがわかった。かれらは、みにくい野心に駆られて、反動や悪辣な人民の敵と協力していたのである。そこでわたしは、いままでかれらについて抱いていた認識を改めることにした。かれらは、これほどにも自尊心に欠け、かれらの思想──キリスト教民主主義として表明していたあの思想を、みずからどぶのなかに投げ捨てたのである。だから、ひとりの詩人が、かれらの捨てた思想を、かれらに拾ってやる理由などは、まったくないのだ。

 わたしはまた、この詩集には、キューバ革命にささげられたスペイン語による最初の詩集である『武勲(いさおし)の歌』とおなじように、繊細な表現についての配慮や野心がない、ということを明らかにしておかなければならない。

 わたしは、老練な機械工のように、経験を積んだ腕前を失ってはいない。だが、わたしはときどき、大衆に役立つ吟遊詩人にならなければならない。制動手の役をつとめたり、羊飼い頭になったり、親方をつとめたり、農夫やガス工夫になったり、また、部隊きっての喧嘩好きになって、げんこつで渡りあったり、鼻の穴から火を吹いたりしなければならない。

 そこで、洗練された、眼の肥えた芸術至上主義者たちは、−まだそういう連中がいるとしてーそんなわたしの詩には、うんざりするがいい。これらの詩の栄養は、ある人たちの口にはあわないほど酸っぱくて、辛辣な酢であり、爆薬である。しかし、それは、人民の健康には、きっとよくきくであろう。わたしには、それ以外にやりようがない。わが人民の敵に立ちむかうわたしの歌は攻撃的であり、アラウカニア*の石つぶてのように痛烈なのだ。

 この任務は一時的なものかも知れない。だが、わたしはそれを引き受ける。

 そしてわたしは、敵をうち破るために古典主義者もロマン主義者も用いた、もっとも古い詩の武器──歌とパンフレットに訴えるのである。

 さあ、用心するがいい、わたしは引きがねをひく!

                   イスラ・ネグラにて
                       一九七三年一月  ネルーダ

*アラウカニア──スペイン征服者はチリの原住民マプーチェ族をアラウコ族とよび、その土地をアラウカニアとよんだ。インカ族の侵入にも、スペイン征服者にも頑強に抵抗した。その勇猛きは十六世紀アロンゾ・デ・エルシージャの詩『アラウカニア』にうたわれた。(本書八四頁参照)

<新日本出版社『ネルーダ最後の詩集──チリ革命への賛歌』1974.5>
ニクソンサイドのすすめとチリ革命への賛歌 目次
Incitación al nixonicidio y alabanza de la revolución chilena. Tabla de contenidos

El prologo まえがき
1. Comienzo por invocar a Walt Whitman ウォルト・ホイットマンを呼ぶことから始めよう
2. Me despido de otros temas ほかの主題とはおさらばだ
3. La canción del castigo 懲罰の歌
4. Él あいつを
5. El juicio 判決
6. El cobre 銅
7. Victoria 勝利
8. La herencia 遺産
9. A ti te llamo  おれはきみたちに呼びかける
10. Regresa el trovador  吟遊詩人 帰る
11. Son los de ayer  それは過去の亡霊どもだ
12. Aquí me quedo  わたしはここに残る
13. Ven conmigo おれといっしょに行こう
14. una historia vulgar  俗悪な物語
15. Leyendo a Quevedo junto al mar  海べでケヴェードを読みながら
16. Una lección  ひとつの教訓
17. A verso limpio 鋭い透きとおった詩で
18. Retrato al hombre  あの男の正体をあばいてやる
19. Paz, pero no la suya 平和を! だがあいつのではない
20. Cuba, siempre またしても キューバを
21. Sobre conspiraciones 陰謀のうえを
22. Duelo de Chile 喪のチリ
23. Que no, que nunca  いや 断じて!
24. L. E. R.  レカバーレン
25. Contra la muerte  死に反対しよう
26. Nunca  断じて
27. El gran silencio  大いなる沈黙
28. Es triste  残念だ
29. Mi general, adiós  われらの将軍よ さようなら
30. Mar y amor de Quevedo  海とケヴェードへの愛と
31. La victoria  勝利
32. 4 de septiembre de 1970  一九七〇年九月四日
33. Desde aquel día  その日から
34. Reviven los gusanos  蛆虫は またぞろ うごめく
35. Diario de loros  鸚鵡どもの新聞
36. Paro pasional  情熱的なストライキ
37. Locos y locuelos  狂人どもと阿呆どもと
38. Yo no me calió  わたしは黙ってはいない
39. Siempre advirtiendo  不断の警戒警報
40. Otra vez advirtiendo  つづいての警戒警報
41. Con la centella  火花とともに
42. Mi compañero Ercilla  わが同志エルシージャ
43. Habla don Alonso  ドン・アロンゾは歌う
44. Juntos hablamos われら 声をあわせて歌おう
 解 説  大島博光


ネルーダ最後の詩集
1974年


 ウォルト・ホイットマンを呼ぶことから始めよう

やむにやまれぬ わが祖国への 愛から
おれは きみに訴える 偉大な兄貴よ
指も灰色の ウォルト・ホイットマンよ

血まみれの 大統領 ニクソンを
詩の力で うちのめしてやる そのために
すばらしい きみの助力(ちから)を かしてくれ

ワシントンに かれが のさばってる限り
ひとびとは 地上で しあわせにはなれず
生命(いのち)ながらえることも できなかろう

吟遊詩人よ やってきて はげましてくれ
おれは テロリストの 姐虫どもにたいして
十四行詩(ソネット)で武装した詩人の義務を 引きうけるのだ

なぜなら 訴状なんかなくとも このおれは
前代未聞の判決を 言い渡さねばならぬ
極悪非道の 犯人に 銃殺刑を──

この男 遠い宇宙などを 探検したくせに
地上で あんまり 人殺ししたので
その残忍な 血のしたたる 名前を 書こうにも

ペンさえ ためらい 紙も たじろぐのだ
おお 憎むべき ホワイト・ハウスの 皆殺し犯

『ニクソンサイドのすすめとチリ革命への賛歌』
 遺 産
                  パブロ・ネルーダ

このように ニクソンは ナパーム弾でものを言い
このように 諸民族と諸国民を 台なしにし
このように 不吉なアンクル・サム*は 統治する

政治ごろと ぺてん師どもに ばらまいた
手の切れるような ドルの おかげで
軍用機に乗った 殺し屋どもを あごで使って

チリよ おまえは 地理のうえからして
アンデスの雪と 主権のあいだに 位置し
太平洋と 春のあいだに 位置してきた

人民は 細長い廻廊のような 祖国のために
たくさんの血を流して たたかってきた
むかしは 飲んで歌うのさえ 法にふれた

あの かずかずの虐殺を 思い出さないか?
サーベルをくらって 国じゅうが傷だらけで
おれたちは 牢屋に ぶち込まれたのだ

   * アンクル・サム──アメリカ人を諧謔的に呼ぶ名まえ。

(「ニクソンサイドのすすめとチリ革命への賛歌」)
 不断の警戒警報

人民よ この地獄のような嵐のなかで
拳(こぶし)をかたく握りしめて 悪を撃ちのめせ

毎晩のように 山犬どもの吠え声が
口汚く チリ革命に 毒づいている

毎日のように 敵は やっきになって
革命の火を もみ消そうとしている

革命の勝利をまもり 保証する
統一という武器を 分裂させようとしている

追いたてられ 苛(いら)だち 苦(にが)りきった敵は
人民の月桂冠を土に埋めようと やっきなのだ


 つづいての警戒警報

よく見るがよい 危急を告げる合図(シグナル)を
勝利した人民に わたしは警告する

みんなのカと信頼を一つにあわせねばならない

チリは 危急存亡の戦場だ
チリは 愛の戦場だ 名誉の戦場だ

(「ニクソンサイドのすすめとチリ革命への賛歌」──新日本出版社『ネルーダ最後の詩集』)


われらの将軍よ さようなら
                           パブロ・ネルーダ

そのときから きみの流した血は 分けたのだ
わが国を ひき裂かれた 二つの部分に
一方は憎しみに燃えて ぶつぶつ言うやから

片方は きみを奪われて 喪にふす人民

その日まで きみは 由緒ある軍人として
かしこい大統領 アジェンデのそばで

人民と その新しい国家を 守ってきた

(まるで きみの戦闘的な 戦士の腕は
殉難にたおれたのちの いまも なお
司令官の義務を 遂行してるかのようだ)

さようなら 暗殺された われらの将軍よ!

きみの思い出は 生きつづけるだろう
アンデスの峯の かがやく雪のように

祖国は たえず きみといっしょに前進する
花咲く春へと通ずる 道のうえを

(「ニクソンサイドのすすめとチリ革命への賛歌」──新日本出版社『ネルーダ最後の詩集』)

* 一九七〇年十月二二日、陸軍総司令官レネ・シュナイダー将軍が国民党のファシスト、ピオ一味によって暗殺される。将軍は、政治への不介入という軍の伝統をまもって人民連合政府を擁護し、「マルクス主義者に道をふさぐ」クーデターに協力しなかったからである。
 将軍は右翼ファシストの手に仆れた最初の犠牲であった。早くも人民連合の勝利のうえに不吉な黒い影がうごめいていた。

 その日から
                    パブロ・ネルーダ

その日から 眼がさめると 世界は見た
いきなり 人民の勝利を 高く掲げる
まぎれもない 真実の チリの姿を

よろこび祝う 世界の声に あわせて
おれたちの海 おれたちの大地は 歌った

あの頃だった 田舎者の 詩人がひとり
パラル*から まっすぐ ストックホルムヘ
出かけて行って 星をひとつ** もらったのは

国をおさめてる 本職の 王様の手から
こうして チリの名は もてはやされた
世界じゅうの町町から 鉱山から 畑から

ながいながい たたかいと 生命(いのち)ぐるみで
人民が ついにかちとった月桂冠として

(とはいえ つかのまの わが人生の歌は
迸りながれた おれの詩の 奔流ともどもに
チリと その地理に とけこんでいるのだ)

* パラル──チリ中部の町、ネルーダの生地。
** 星ひとつ──一九七一年度のノーベル文学賞の授与を指している。なおノーベル文学賞はスエーデン王立アカデミーが授与することになっている。

(「ニクソンサイドのすすめとチリ革命への賛歌」──新日本出版社『ネルーダ最後の詩集』)

 勝 利
                    パブロ・ネルーダ

こうして 勝利は アジェンデとともに
競技場へ到着し 革命における奇蹟たる
合法的な チリ革命に たどり着いた

それは 勝利した多数派の 赤い薔薇だ

(プロレタリアートの分列行進のように美しい)
わが共産党とともに わたしは 行進した
いまやついに この世界にやってきたのだ

この新しい 革命の道の 実現される日が

人民にむかって わたしは 祝杯を挙げる
未来のために わがぶどう酒を 高く挙げる

(「ニクソンサイドのすすめとチリ革命への賛歌」──新日本出版社『ネルーダ最後の詩集』)

一九七〇年九月四日

こころに思い浮ぶのは やはり 統一だ!
チリ万才! 歓呼の声が 湧きあがる
万才! 銅よ ぶどう酒よ 硝石よ

万才! 人民のねばりづよい 統一よ!
そうだ チリはただひとりの候補者をもった
だが なんと苦しい たたかいだったろう
今日(きょう)の勝負をみるには 死にもの狂いだった

ただ前進 日が進むように 前進するばかり

いま サルバドル・アジェンデが大統領となる

勝利の喜びに みんなが わくわく顫える
勝ち進む人民は すさまじい たつまきだ
強欲な奴らの石頭を 吹きとばしうちのめす

(ひとりは舞台に登り ひとりは降りる
時代と歴史から遠のきながら 墓穴のなかへ)

アジェンデが 勝利の座に のぼるとき
バルトラ**は ごきぶりのように 出てゆく

*一九七〇年九月四日──人民連合の統一候補サルバドル・アジェンデ、大統領選挙において、国民党およびキリスト教民主党の候補をおさえて、勝利を獲得する。
** バルトラ──アジェンデが統一候補に指名される前の、急進党の前大統領候補であったが、やがて「左翼」急進党を創立し、一九七二年四月には「人民連合」から離反し、次第に反動的立場をとる。

(「ニクソンサイドのすすめとチリ革命への賛歌」──新日本出版社『ネルーダ最後の詩集』)

吟遊詩人 帰る

そのためだ わたしがきみと連れだって ここにいるのは

わたしは 恋する男のように 帰ってきた
チリの太陽へ チリの大気へ チリの海へ
出かけるのもつらいが 帰り着くのもつらい

なぜなら わたしのこころは コップのように
いつも あのチリの 黄金いろのかがやきで
チリへの透きとおった賛歌で いっぱいだった

わが 雪と繻子の祖国は わたしにとって
一度も 行きずりのものではなかったばかりか
わたしの肉ふかく食いこんだ ふかい傷ぐちであり

あるいは 野の中をさまよいゆく月だったのだ
わたしは おまえの山山のなかに根をおろし
そうして アンデスの山なみの中に 花咲いた

(おまえから遠く離れて 異国の地にあっても
わたしはいつも おまえの旗のなかで 生きた
なぜなら わたしの詩は 三つの色*に染まっている)

それだから 星をちりばめた 白い祖国よ
赤と 青い祖国 優しさ溢れる祖国よ
わがチリなる祖国 わが愛する祖国よ

わたしは遠くから おまえの太鼓の音をききつけたのだ

わたしは心配で おまえのところに駆けより
いまここに とどまっているのだ 心痛めて

*三つの色──チリの国旗は、青地に白い星を染めぬいた青と、白と、赤とから成る。

(「ニクソンサイドのすすめとチリ革命への賛歌」──新日本出版社『ネルーダ最後の詩集』)

ネルーダ

 一九九四年七月、ネルーダ生誕七〇周年記念チリ人民連帯の夕べが開かれました(佐藤光政、横井久美子らの演奏、土井大助作スライド構成「ネルーダの生涯」、大島博光講演、詩朗読など)。併せて「チリ人民連帯ニュース・ネルーダ生誕記念特集号」が発行され、博光は「詩人と自由」と題して、ネルーダの詩はそこに自由という言葉がかかれていなくとも、すべて自由をうたい自由のために書かれたと述べています。また上の新しい詩を紹介しています。
[われら 声をあわせて歌おう]の続きを読む