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プレヴェール 「覚えているか バルバラよ」

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 覚えているか バルバラよ
                              ジャック・プレヴェール/大島博光訳

覚えているか バルバラよ
あの日ブレストに おやみなく雨が降っていた
きみは 微笑みをうかべ
うれしそうに明るく顔を輝かせて
雨のなかを歩いていた
覚えているか バルバラよ
ブレストに おやみなく雨が降っていた
シアム街で わたしはきみとすれちがった
きみは微笑んだ
同じように わたしも微笑んだ
覚えているか バルバラよ
きみを わたしは知らなかった
きみも わたしを知らなかった
覚えているか
それでも あの日を覚えているか
忘れずに思い出せ
ひとりの男がポーチのかげに身を寄せていて
きみの名を叫んだのだ
バルバラ と
するときみは 雨のなかを彼のそばに駆けよった
明るく顔を輝かせて うれしそうに
そして 彼の腕のなかに身を投げた
それを覚えているか バルバラよ
わたしが 「きみ」と親しげに呼んでも
きみは そういうわたしに答えてはくれまい
それでもわたしは 愛するものすべてにきみと言う
一度も会ったことのないひとにさえも
愛しあうすべてのひとに わたしはきみと言う
その人たちを知らなくとも
覚えているか バルバラよ
忘れずに思い出せ
あの しあわせな町のうえに
きみの しあわせな顔のうえに
降っていたあの しあわせなやさしい雨を
海のうえに
兵器廠のうえに
ウッサン島の舟のうえに
降っていたあの雨を
おお バルバラよ
戦争とはなんとばかげたことだろう
いま きみはどうしているか
この 鉄の雨の下で
火の鋼(はがね)の 血の雨の下で
そうしてきみを 愛情こめて
腕のなかに抱きしめたあの男は
死んで亡くなったのか
それともまだ生きているか

おお バルバラよ
ブレストに おやみなく雨が降っている
むかし降っていたように
だが それはもう同じ雨ではない
すべては 傷(いた)めつけられ崩れ落ちた
それは 怖ろしくも悲しい喪の雨だ
それはもう 鉄の鋼(はがね)の 血の
嵐でさえもない
ただ単純に 雲なのだ
犬どものように死んでゆく雲なのだ
ブレストの流れに沿って
あの犬どもは 姿を消し
遠く ブレストからはるか遠くへ
行って 死に
もう あとには何も残っていない

(自筆原稿)
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