蚕は死ぬまで
フイ・カーン
大島博光訳
蚕は 死ぬまで
絹糸を吐きつづけて
繭をつくりつづける
悦びを宿す黄金色の部屋を
絹糸を吐く詩人の わたしも
わが運命の繭をつくろう 死ぬまで
いやいや 新しい時代のために
わたしが蝶に変わるまで
友らよ わたしの糸はすでに伸びた
軽やかに 細く 強く
もう どんな虫にも悔恨にも蝕まれない
もう どんな裏切りにも脅かされない
絹糸は 絹糸は 太陽の繊維だ
詩は 詩は この世の繊維だ
わたしは詩でわが人生を織りわが墓を織る
あけぼのの糸で わたしは目覚めを織ろう
フイ・カーンは一九一九年生まれのベトナムの詩人。青年時代にベトナム民族解放戦線に参加し、アメリカ帝国主義を追い出すべトナム戦争をたたかい抜いた詩人も、いまは老年です。しかし、その詩はますます円熟と高邁をみせています。
ここに訳出した詩も、つややかな絹糸を思わせるような詩の冴えをもって詩人自身の老境の想いをうたったものです。
「友よ わたしの糸はすでに伸びた/軽やかに細く 強く」──わたしの生命の糸はもう伸びて、細いが強い。だから何ものにも「蝕まれない」「裏切りにも脅かされない」と言うのです。詩人は老いのおとろえを嘆くどころか、反対に老いの強さ、高さを強調しているのです。そこから「あけぼのの糸で わたしは目覚めを織ろう」という奇跡のような最後の一行が出てくるのです。それは、未来を見据えた詩人の精神の高さ、信条の美しさそのものにほかならないように思われます。
(おおしまひろみつ・詩人)
<「新婦人しんぶん」─今月の詩─>
フイ・カーン
大島博光訳
蚕は 死ぬまで
絹糸を吐きつづけて
繭をつくりつづける
悦びを宿す黄金色の部屋を
絹糸を吐く詩人の わたしも
わが運命の繭をつくろう 死ぬまで
いやいや 新しい時代のために
わたしが蝶に変わるまで
友らよ わたしの糸はすでに伸びた
軽やかに 細く 強く
もう どんな虫にも悔恨にも蝕まれない
もう どんな裏切りにも脅かされない
絹糸は 絹糸は 太陽の繊維だ
詩は 詩は この世の繊維だ
わたしは詩でわが人生を織りわが墓を織る
あけぼのの糸で わたしは目覚めを織ろう
フイ・カーンは一九一九年生まれのベトナムの詩人。青年時代にベトナム民族解放戦線に参加し、アメリカ帝国主義を追い出すべトナム戦争をたたかい抜いた詩人も、いまは老年です。しかし、その詩はますます円熟と高邁をみせています。
ここに訳出した詩も、つややかな絹糸を思わせるような詩の冴えをもって詩人自身の老境の想いをうたったものです。
「友よ わたしの糸はすでに伸びた/軽やかに細く 強く」──わたしの生命の糸はもう伸びて、細いが強い。だから何ものにも「蝕まれない」「裏切りにも脅かされない」と言うのです。詩人は老いのおとろえを嘆くどころか、反対に老いの強さ、高さを強調しているのです。そこから「あけぼのの糸で わたしは目覚めを織ろう」という奇跡のような最後の一行が出てくるのです。それは、未来を見据えた詩人の精神の高さ、信条の美しさそのものにほかならないように思われます。
(おおしまひろみつ・詩人)
<「新婦人しんぶん」─今月の詩─>
- 関連記事
-
-
フィ・カーン「自然はこんなにも美しいきみを創った」 2012/01/07
-
フィ・カーン詩集『東海の潮』 目次 2012/01/07
-
フイ・カーン 「バーバラ・ベードラーヘの返事」 2011/01/08
-
フイ・カーン 「蚕は死ぬまで」 2011/01/02
-
フィ・カーン「秋の午後」 2010/09/29
-
この記事のトラックバックURL
http://oshimahakkou.blog44.fc2.com/tb.php/853-af8fb3be
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック