野球の帰りに立ち寄られたときのこと─西條八束「大島博光さんをしのんで」(2)

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 野球の帰りに立ち寄られたときのこと       西條八束

 私たちが結婚して数年後、表参道の同潤会アパートにいた頃のことである。長女の八峯(やお)が生まれて間もなかった。当時大島さんは奥さんにお弁当を作ってもらって、神宮球場に野球を見に行かれ、その帰りに私どもの宅にしばしば立ち寄られた。
 ある日、私は留守だったが大島さんが来られた時、偶然、孫の顔を見に来ていた西條の母と久しぶりに出会った。母は大島さんと、戦前、西條の家で大島さんが『蝋人形』の編集をしていた頃の思い出を話し合っていた。その中で母が、「大島さん、あの時の娘さんのこと・・・」と言いかけたら、大島さんが顔を赤らめて、「奥さん、そのことは、もうかんべんしてくださいよ」と恥ずかしそうに答えたという話をあとで家内から聞いた。その日、母は歯医者に行った帰りで前歯が一本抜けていたが、母が一足先に帰ったあとで、「奥さまもお年を召されましたね」と感慨深そうに言っておられたそうである。

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