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戦争前夜の街で ──NOVAの時代

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戦争前夜の街で──NOVAの時代

                          大島 博光

表現主義のモダンな舞台装置の酒場
のような酒場が 夜ともなれば
新宿の 暗い狭い裏通りに
灯かげを投げていた
物語のなかでのように
映画の一コマでのように
揺れる黄色い灯かげを投げていた

思い出せば
そこにやってきた人びとも
いまはもうみんな
物語のなかの人物たちのように見える
半世紀もたてば なにもかもが
暗い歴史のなかに揺れた影絵のように見える

それは暗い嵐の海にひらいた港だった
難破をまぬかれた舟や
気ちがい舟や 酔いどれ舟がもやっていた

思い出せば あの頃
最後の自由の光のように
ロシア映画の「人生案内」がかかった
「みなし児の歌」が流行った

 「おいらが死んだら
 だれかが おいらを
 埋めてくれようさ
 でも誰も知らないだろう

 春がくりゃ
 鴬がそっときて
 啼いてくれようさ
 おいらの墓場で・・・」

われわれもどこか
暗い街に投げ出されたみなし子に似ていた
こころのよるべもなく
見えていた光もだんだん消えて
やがて灰の中の 埋れ火も火種も
根こそぎほじくり出されて

あのムスタファの前には
処女地での建設が待っていたが
われわれの前には
猿ぐつわと目隠しと
わがもの顔にのさばり歩く長靴しかなかった

わたしは夜な夜な
酒場から酒場へとさまよっていた
泉から泉へと捜し歩く野獣のように
港から港へよろめいてゆく
酔いどれ舟のように

わたしは詩を書かない詩人となり
詩の書けない詩人となり
酒びたりの酩酊のなかに
詩をいきていると思い込んでいた

戦車隊のキャタピラが街なかにとどろき
軍靴が鳴りひぴき
軍歌の合唱が夜の街にも溢れはじめた・・・

<NOVA通信 第一号 1988.7>
 

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