ランスの微笑み
おんみのみごとな唇に浮かべたランスの微笑み・・・・ ──アラゴン
「ランスの微笑み」とは何を指すのか
それまでわたしは知らなかった
知らぬままに
わたしはランスのカテドラルを訪ねて行った
カテドラルの塔は 列車の窓からも見えた
まるでシャンパーニュの野に根づいた
大きな樹木のように
ランスの駅前は
鬱蒼としたはしばみの林の公園になっていて
林のなかを大きな通りが
町にむかって放射線状に伸びていた
そんな大通りのひとつをしばらく行くと
左側の横丁のつきあたりに
カテドラルは立っていた
わたしたちのほか 訪れる観光客もなく
門前町というようなものもなく
小さな広場を前にして
ランスの大カテドラルは聳えていた
暑い夏の夕陽のなかに
中世のままに 飴色の石肌を輝かせて立っていた
たび重なる戦火をくぐりぬけてきて
その角石の角はもう丸く擦りへっていた
そうしてその正面の左側の入口の壁面に
いかめしい聖者たちと並んで
『微笑みの天使』が立っていた
長い時間に耐えて左手はもげ
背負った翼には穴があいたりしていたが
春風のように優しい微笑みをその唇にたたえていた
──これが「ランスの微笑み」なのだ!
わたしはしばらくその前に立ちつくしていた
まるでその微笑みに吸いこまれたように
(1974.8)
<「大島博光全詩集」>
おんみのみごとな唇に浮かべたランスの微笑み・・・・ ──アラゴン
「ランスの微笑み」とは何を指すのか
それまでわたしは知らなかった
知らぬままに
わたしはランスのカテドラルを訪ねて行った
カテドラルの塔は 列車の窓からも見えた
まるでシャンパーニュの野に根づいた
大きな樹木のように
ランスの駅前は
鬱蒼としたはしばみの林の公園になっていて
林のなかを大きな通りが
町にむかって放射線状に伸びていた
そんな大通りのひとつをしばらく行くと
左側の横丁のつきあたりに
カテドラルは立っていた
わたしたちのほか 訪れる観光客もなく
門前町というようなものもなく
小さな広場を前にして
ランスの大カテドラルは聳えていた
暑い夏の夕陽のなかに
中世のままに 飴色の石肌を輝かせて立っていた
たび重なる戦火をくぐりぬけてきて
その角石の角はもう丸く擦りへっていた
そうしてその正面の左側の入口の壁面に
いかめしい聖者たちと並んで
『微笑みの天使』が立っていた
長い時間に耐えて左手はもげ
背負った翼には穴があいたりしていたが
春風のように優しい微笑みをその唇にたたえていた
──これが「ランスの微笑み」なのだ!
わたしはしばらくその前に立ちつくしていた
まるでその微笑みに吸いこまれたように
(1974.8)
<「大島博光全詩集」>
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