四万人の歌声
ルイ・アラゴン
息絶えながらランヌの鉄道員たちは何を歌ったか
パリの牢獄におこる歌ごえは何を口ずさんだか
あのわきあがる歌声は死刑執行人に引ったてられても
シャトオブリアンのゆくひとびとにくりかえされる
銃殺されてもそのルフランはまたよみがえった
しかも おまえを黙らせることに絶望しながら
いまおまえの国に 鈎十字(ハーケンクロイツ)の旗は垂れさがる
おお かつてわれらの祖父たちのうたった歌よ
おまえの言ったことは真実(ほんとう)だった 「義勇兵の歌」よ
われらの腕のなかで愛するものらは血にまみれている
かって ヨーロッパをうっとりとさせた
あの感情がいつもおまえの言葉に脈うっていた
力うせ 蒼くなった圧制者どもは
どこから歌声がおこるのか 探しまわった
あの高鳴りつづける赤い心臓を「古き港(マルセイユ)」に
なんと恥知らずなこぶしがわれらの扉をたたくことか
何がほしいのか うらぎりのやからよ
犬畜生にもおとる身となりはてた奴隷のように
流刑にされるような何をわれらがしたというのか
われらの家を おまえらは奪おうというのか
どうか 生まれ故郷で死なせてくれ と
追いたてるものどもに 老人は訴える
何ということだ フランス人がフランス人の家を盗むとは
何ということだ フランス人を苦しめる敵のために
フランス人が その泥さらいになりさがるとは
それでもフランス人か 子供たちは彼らをじっと見つめる
だましたなぁ うらぎったなぁ という目つきで
さあ 哀れなぼろ着のまま逃げうせねばならぬ
それでもフランス人か おお 守護の女神よ
あなたにも見えるでしょう たじろいではなりませぬ
異国の兵よ 見るがいい 残されたいろりのなかに
なお赤あかと燃える われらの憎悪のおき火を
「一月」の復讐者よ マルセイエーズを歌え
投げつけられる 椅子の飛び舞う窓から
それでも怒りに燃えぬ心なら そんな心は捨ててしまえ
異国の鎖につながれ 異国の兵にまもられ
徒刑場へあるいてゆく四万のひとたち
野の草を萌えたたせる希望の風が
アフリカから吹いてきて そのあとをついてゆく
徒刑囚たちはその希望の歌声をききとるのだ
かつて暴君たちをふるえあがらせた古い歌が
この夜 アルジェリヤ*の熱風に吹き送られ
あるいてゆく四万のひとたちをはげますのだ
そうして四万の祖国の子らは口ずさむのだ
マルセイユよ おまえの城壁から生まれたあの歌を
*ベタンの売国政府がナチに降服したときも、なお降服せずに、抗戦をつづけたフランス軍隊がアフリカの仏領アルジェリヤにいた。
(「フランスの起床ラッパ」)
*「四万人の歌声」は原著では13番目、「責苦のなかで歌ったもののバラード」のつぎになっているが、三一書房版では「フランス行進曲」についで4番目の詩となっている。
ルイ・アラゴン
息絶えながらランヌの鉄道員たちは何を歌ったか
パリの牢獄におこる歌ごえは何を口ずさんだか
あのわきあがる歌声は死刑執行人に引ったてられても
シャトオブリアンのゆくひとびとにくりかえされる
銃殺されてもそのルフランはまたよみがえった
しかも おまえを黙らせることに絶望しながら
いまおまえの国に 鈎十字(ハーケンクロイツ)の旗は垂れさがる
おお かつてわれらの祖父たちのうたった歌よ
おまえの言ったことは真実(ほんとう)だった 「義勇兵の歌」よ
われらの腕のなかで愛するものらは血にまみれている
かって ヨーロッパをうっとりとさせた
あの感情がいつもおまえの言葉に脈うっていた
力うせ 蒼くなった圧制者どもは
どこから歌声がおこるのか 探しまわった
あの高鳴りつづける赤い心臓を「古き港(マルセイユ)」に
なんと恥知らずなこぶしがわれらの扉をたたくことか
何がほしいのか うらぎりのやからよ
犬畜生にもおとる身となりはてた奴隷のように
流刑にされるような何をわれらがしたというのか
われらの家を おまえらは奪おうというのか
どうか 生まれ故郷で死なせてくれ と
追いたてるものどもに 老人は訴える
何ということだ フランス人がフランス人の家を盗むとは
何ということだ フランス人を苦しめる敵のために
フランス人が その泥さらいになりさがるとは
それでもフランス人か 子供たちは彼らをじっと見つめる
だましたなぁ うらぎったなぁ という目つきで
さあ 哀れなぼろ着のまま逃げうせねばならぬ
それでもフランス人か おお 守護の女神よ
あなたにも見えるでしょう たじろいではなりませぬ
異国の兵よ 見るがいい 残されたいろりのなかに
なお赤あかと燃える われらの憎悪のおき火を
「一月」の復讐者よ マルセイエーズを歌え
投げつけられる 椅子の飛び舞う窓から
それでも怒りに燃えぬ心なら そんな心は捨ててしまえ
異国の鎖につながれ 異国の兵にまもられ
徒刑場へあるいてゆく四万のひとたち
野の草を萌えたたせる希望の風が
アフリカから吹いてきて そのあとをついてゆく
徒刑囚たちはその希望の歌声をききとるのだ
かつて暴君たちをふるえあがらせた古い歌が
この夜 アルジェリヤ*の熱風に吹き送られ
あるいてゆく四万のひとたちをはげますのだ
そうして四万の祖国の子らは口ずさむのだ
マルセイユよ おまえの城壁から生まれたあの歌を
*ベタンの売国政府がナチに降服したときも、なお降服せずに、抗戦をつづけたフランス軍隊がアフリカの仏領アルジェリヤにいた。
(「フランスの起床ラッパ」)
*「四万人の歌声」は原著では13番目、「責苦のなかで歌ったもののバラード」のつぎになっているが、三一書房版では「フランス行進曲」についで4番目の詩となっている。
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