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フランス行進曲

ここでは、「フランス行進曲」 に関する記事を紹介しています。
フランス行進曲
                     ルイ・アラゴン

裏切りと牢獄の
季節がきたとき

泉が かき乱されて濁り
涙ばかりが 清らかだったとき

狂った叫びと へつらいと
裏切りの声が 聞こえてきた

緑衣のやつばらと 禿鷹が
われらの天日を 暗くした

やつらは言った おまえらは飢えるがいい
そうして われらの手から麺麭(パン)を奪った

やつらは言った その本を投げ捨てろ
犬は黙って 主人のあとについて来い

やつらは言った おまえらは寒さに震えるがいい
そうしてわれらの祖国を戦火へ投げ込んだ

やつらは言った 眼を伏せろ
黙って 服従するのだ

やつらは言った みんな脆け
強情なやつは 消えて失(う)せるのだ

やつらは あるものを刑場へ投げこみ
あるものを ドイツへ連れ去った

だがやつらは ジャンとピエルの見さかいもなく
若ものたちとその怒りを 忘れていた

だがやつらは 忘れていた
かたい決意に燃えたひとびとを

髪にそよぐ風のように生きるか
燃えつきた炎のように死ぬか

気まぐれの冒険に行くためではなく
遠い基地を訪ねて行くためでもなく

憎むべき侵略者に抗して立ち上った
ふみにじられた祖国のための十字軍を

追いだそう 追いだそう 掠奪者を
人殺しを 売国奴を 新しい支配者を

よい穀物はわるい穀物から選(え)りわけられる
今こそ祖国にむくい 奪いとらねばならぬ

むごい手に奪いとられた
すべての庭を すべての路地を

外敵の手に奪われた
すべての納屋を 果樹園を

すべての丘を すべての谷を
すべての家を すべての墓を

すべての沼を 魚たちを
谷間のすべての榛(はしばみ)の実を

すべての山を すべての岬を
われらの歴史で血ぬられた牧場を

そうして雲もない ドイツ人もいない
果てしもなく はれやかな青空を

愛するものを解き放たねばならぬ
おのれを おのれを おのれ自身を


 祖国独立のための闘争は、フランスの人民を、かつてない英雄的な行動に起ち上らせ、未曾有のヒロイズムを生んだ。詩人はそのヒロイズムにあらわれた人間の偉大さを多くの詩で讃え、それによってひとびとを勇気づけ、はげましている。
 パルチザンを歌い、義勇兵へ呼びかけている詩ほど、詩人の勝利への確信と希望に色どられ、悲惨のさなかにもなお力強く明るいものはない。つぎからつぎへ、戦士たちが倒れて行っても、腕を組んだ人民はひとつであり、あとからあとから、「歌う明日」のために、

 髪にそよぐ風のように生き
 燃えつくした炎のように死ぬ

 決意に燃えた戦士がつづくからだ。ファシストの野蛮から祖国をまもることは、また人間の尊厳をまもることにほかならない。そのためにこそ多くのフランス人民が血を流し、みずからの血によって、人間の尊厳そのものを、あの暗黒の世界のなかでなお、あかしたてたのである.
(三一書房「フランスの起床ラッパ」)

*「フランス行進曲」は原著では最後から五番目、「ガブリエル・ペリの伝説」のつぎになっているが、三一書房版では「序」(散文詩)、「フランスの起床ラッパへの序曲」についで三番目の詩となっている。博光はこの詩を重視し、かつ全体の構成をわかりやすくしようと考えて順番を変えたものとおもわれる。
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