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その時にも人びとはまだ眠っていた

ここでは、「その時にも人びとはまだ眠っていた」 に関する記事を紹介しています。
その時にも人びとはまだ眠っていた
                           ルイ・アラゴン
    
とうとう わたしは見つけた 天使たちの衣(ころも)のなかに
あのカシミヤのようにやわらかい 影と忘却のひだを
とうとう この憩いを この港を またこの納屋を
だが 暗い水に ぽんやりと 影をおとす星を
揺れに揺れる 帆布がかきみだし狂わせる
とうとう わたしは見つけた この眠りの寝藁を

このどこともなくそよぐ風 この夢うつつに誘われて
わたしは花の香りのあとを どこまでも辿ってゆく
身も世も忘れる この花束のなかに のめり込む
この不思議な誕生の夜 わたしは生まれる
ビロードの世界をひらいてくれる 死の国に
ここでは もうだれも昼のことを思い出さぬらしい

影の縁石から 陽の照りかえすあたりまで
水切りの石が まどろむ水面を切りさく一瞬も
醒めた人が涙ながらに歌う あの束のまの夢の
狂ったような開花を信ずるには 充分に長い
永いこと 眠りこんだ そのあとで ひとの眼が
驚き見とれる あのうつくしい稲妻のように

おお 夢の井戸よ 青いサルビアよ 逆(さかさ)のあけぼのよ
不意討ちをくった思い出は そこに力もうすれて死ぬ
さあ 月の指がゆする この水で 洗うがいい
かずかずのにわか雨で汚れた 心配苦労の下着を
わたしは みずからの手で 逃亡させたくはない
長いシャツを着た 深夜の踊り手たちを

ああ 手をかしておくれ 軽やかなファランドールの踊り手たち
若者よ きみらの清らかな指を 歌ごえを まなざしを
わたしはまた 羊歯を踏みしだくすべを 教えてやるから
きみらが素足をしるすところ 星たちは雪のように降る
さあ舞踏会を開いておくれ わたしもきみらと一緒にさまよいたい
そうしてあの血走った眼をした死者たちを しばし忘れたい

(新日本文庫「フランスの起床ラッパ」)
(注)この詩は三一書房版では割愛されている。同書の解説で「以下かかげる詩は、必ずしも原著の順序によらなかった。編者自身いろいろ考えている詩法の追及や表現の都合で、前にしたり後にしたりした。訳出しなかったものも四,五あることをここに附記しておく」と書いている。なお、新日本文庫版、飯塚書店「アラゴン選集」およびガリ版刷り「フランスの起床ラッパ」では原著の順序で全部載っている。

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