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博光 最初の手紙

ここでは、「博光 最初の手紙」 に関する記事を紹介しています。
その後どうしています?
いつか、ヴァレリイの拙訳を読んで下さったあなたの声を ときどき想い出してゐます。(過日楊○が突然訪ねてきてくれ、その節あなたのことを話しあひ、あなたのアドレスを教へてもらったのです。)
五月、私はこの信州の田舎へ帰ってきましたが、田舎の単調にはやりきれません。七月頃までは、勉強もできましたが、九月・十月は、もう釣ばかりしてゐて、読書もせず、筆ももたないやうな日々です。ゴオガンがタヒチへ逃れたやうに、私は釣の中へ逃れてゐるのです。しかし、釣などには如何なる芸術的収穫もないやうです。完全な忘却─素朴な期待による時間の意識の喪失があるばかりです。詩の方へ戻って行かねばなりませんが、その詩が私にはもう袋路のやうに行きつまってしまってゐるのです。尤も、この袋路を突き破って進むことが、いつでも芸術の道なのですが、今はその情熱も湧いてきません。癒しがたい倦怠が、どうしても払えないで、釣に走るといふわけです。七月頃作った詩を一篇同封します。一度あなたに朗読してもらひたいと希っています。都合よろしかったら、遊びにきて下さい。電報下されば長野駅まで出てゐます。
美神の思寵、あなたのうへに厚からむことを。
十月二十日
                        大島博光
鈴木靜江様

(昭和十九年五月に信州に帰っていた博光が靜江に出した最初の手紙。宛先は前橋市曲輪町九四 群馬県農業会総務課 鈴木静江。たまたま博光を訪ねて来た楊○?さんが靜江の勤務先のアドレスを教えてくれたおかげで手紙を出した。このあと、頻繁に詩のような、ギリシャ神話調のラブレターを書く。そして一月三日、雪の長野駅で再会することになる。
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