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大島博光編『ひとつの愛の詞華集』の 詩人たち(1)

ここでは、「大島博光編『ひとつの愛の詞華集』の 詩人たち(1)」 に関する記事を紹介しています。

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*アポリネール『愛の歌

花






大島博光編『ひとつの愛の詞華集』の
詩人たち(1)
                大島朋光

 大島博光は翻訳した詩のアンソロジー『ひとつの愛の詞華集』の草稿を残しています。フランスを中心に愛の詩を集めたもので、ページの割り振りから解説まで書いてまとめましたが、出版には至りませんでした。解説で「この小さな愛の詩のアンソロジーは、折にふれて感興のおもむくままに訳したものや、わたしの愛誦するものなどを、なんとなしに集めたものである」と述べています。

 十四人の詩人、二十三篇の詩
 登場する詩人は十四人で、十九世紀までの詩人がクリスティヌ・ド・ピサン(一三六四 ~一四三〇)、ルイズ・ラベ(一五二五~一五六六)、シャルル・クロ(一八四二~一八八八)、マルスリーヌ・デボルド・ヴァルモール(一七八六~一八五九)の四人で、二十世紀の詩人がアポリネール、フランシス・ジャム、フランシス・カルコ、ピエール・ルヴェルディ、イヨランド・カッサン、ロベール・デスノス、ナジム・ヒクメット、パブロ・ネルーダ、ギュヴィック、ルイ・アラゴンの十人。何故か〝愛の詩人〟エリュアールが入っていませんが、解説の中でエリュアールの詩を取り上げて論じています。
……新しい時代には、新しい愛の詩が生まれてくるだろう……それは、二人だけの孤独な愛から抜けでて、ほかのひとびととの共同のたたかい、共同の目的をめざして進むことによって、より大きな愛へと高まってゆく──そういう新しい愛の詩である。エリュアールは有名な『ぼくらの生』という詩でうたっている。
ぼくらは目的にむかって一人ずつでなく 二人いっしょに進もう
ぼくら二人がよく識りあうことで みんなともよく識りあい
ぼくらみんなが愛しあうだろう そしてぼくらの子供たちは
あの孤独な人間が泣いている 暗い伝説を笑うだろう
 愛もまた「万人の地平」へと出てゆくのだ。いや、愛によってこそ、ひとは「万人の地平」へと出てゆくのだ、というべきかも知れない。たがいによく知りあうことによって。
 ミラボー橋の詩人アポリネール
 詞華集の冒頭はアポリネールです。「アポリネールの愛の歌を冒頭にもってきたのは、この詩がひとつの愛の歌の歴史を描き、いろいろな愛の姿を描いて、ひとつの「愛の交響詩」たる、このアンソロジーの序曲にふさわしいと思ったからである」(解説)。
 アポリネール(一八八〇~一九一八)は二十世紀初頭の最も重要な詩人の一人で、美術評論家としても活躍し、同世代のピカソと親交を結び、キュビスムを擁護しました。大島博光はミラボー橋の詩人アポリネールとして紹介しています。
 アポリネールは幾人もの女に失恋した詩人として知られている。まず、アンニイという女に失恋して、『振られた男の歌』という難解な長い詩を書いている。そして『ミラボー橋』もまた失恋の詩なのだ。アポリネールが女流画家マリイ・ローランサンに失恋した話は有名である。一九〇七年、アポリネールは、才気溢れるマリイに出会ってたちまち彼女のとりことなった。当時マリイはおよそ二十五歳、ミラボー橋にちかい、右岸のラ・フォンテーヌ街に母親と二人で住んでいた。マリイとの親交を深めるために、アポリネールはわざわざその近くのグロ街に引っ越したほどである。しかし、二人の仲はうまくゆかなかった。アポリネールの失恋の悲しみは、有名な『ミラボー橋』のなかにみごとに結晶することになる。過ぎ去ってゆく恋と過ぎさる時の流れとを重ねあわせて、詩人は失恋の悲しみをうたうと同時に、時の流れの無常さをうたっているのである。

 ミラボー橋の下 セーヌは流れ
     われらの恋も 流れさる
   思い出さねばならぬのか
 苦しみのあとには いつも悦びがきたのを

  早く夜となれ 鐘よ 鳴れ
  日日は去り わたしは残る

 手と手をとり 顔向きあわせていよう
      そのあいだにも
   つないだわれらの腕の 橋の下
 永遠の眼ざしの 疲れた波は流れさる

  早く夜となれ 鐘よ 鳴れ
  日日は去り わたしは残る

 恋も過ぎさる 流れるこの水のように
      恋も過ぎ去る
    なんと 人の生ののろいこと
 そして希望のなんと 激しいこと

  早く夜となれ 鐘よ 鳴れ
  日日は去り わたしは残る

 日日は去り 月日は過ぎさる
     過ぎさった時も
   恋も 二度とはもどって来ない
 ミラボー橋の下 セーヌは流れる

 まことに、日日は去り、アポリネールは死んだが、彼の詩は残った。
(大島博光「詩と詩人たちのふるさと──わがヨーロッパ紀行」)
(つづく)

(『狼煙』一〇三号 二〇二四年二月)












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