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紙芝居 おせんさん

ここでは、「紙芝居 おせんさん」 に関する記事を紹介しています。

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おせんさん 
作・画 赤澤節子

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おせんさんは87才 。
この村の大百姓の家に16才で嫁に来ました。玉のこしと言われましたが
婚礼の翌日からは下働きのお手伝いとかわらない生活がはじまったのです。
大姑の下に姑がいて、その下には、おせんさんより年上の小姑達が5人もいました。
40才で主人と死にわかれ、4人の子供達も遠い県外にすみ、おせんさんのひとり暮しも長くなりました。

3

3年程前、仲良しのあねさんが町の娘の所に行ってから、おせんさんの様子がおかしくなりました。
畑の手入れもしないで1日中、歩きまわり、パトカーで送ってもらうこともありました。 
今日もおせんさんは歩きつかれ、道ばたにしょんぼりすわりこんでいました。
「あれ、おばあちゃん、また まいご? おばあちゃんちはどっちだっけ」
声をかけた のは、いつもの若い駐在さんです。おせんさんは自信なさげに空を指差しました。
「空? 空に行くのは まだ早いでしょ」駐在もすっかりなれています。 
 
4

そんなおせんさんがある日、ボヤをだしたのがきっかけで地元の施設に入ることになりました。
「まあまあ、小林おせんさん、所長の今井です。なつかしいですね。もんぺ姿は私の母がそうでしたよ」
おせんさんはとつぜん、つきそって来た民生委員の春日さんに「何者だえ、このよくしゃべる女は!」 
と聞いたので春日さんはあわててしまいました。 「おせんさん! 今日からここでお世話になるんですよ!
この方がここの所長さんなの!」「へえ そうかえ」春日さんは頭をかかえました。

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よく朝のことです。玄関におせんさんがあらわれました。 
ほっかむりにモンペ姿・両手に大きな袋をぶらさげ、おまけに背中にまで風呂敷づつみをしょっています。 
「わしゃ いそいで実家へ帰らなきゃなんねんだ、みんなが待ってんだよう」 
そして入口のガラス戸をこぶしてガンガンたたきはじめたのです。

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外に出たおせんさんは はじめて来た所 とは思えない早さで歩きはじめました。
菜の花畑にはおせんさんにしか見えない、なつかしい人達がいました。
「ありゃ ヤスケんとこの嫁だな。またボコが産まれたんか」
「あんしゃん、そんなに無理すんと長生きできねえよ、なんで若えもんにやらせねんだ」
おせんさんは、ひとりごとを言いながらひたすら歩き続けます。

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歩きながらおせんさんはいつの間にか、つらい思い出の中の自分になっていました。
それは嫁に来て半年程たった頃、実家の父親がとつぜん倒れたとの知らせが来ました。 
「使いのもんは帰れとは言わんかったぞ、おら嫁に来て10年は実家に行かせてもらえんかった」 
姑女に言われ、何も言えない16才のおせんさんは、ただカマドの前で泣くばかりでした。 

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それから数日して「こちらの嫁さんのとっつあまが死んだんでむけえにあがりやした」
使いの留さんは何が何んでもつれて帰るという意気ごみを見せて台所にすわりこみました。
「おせんはかくごして嫁に来たんだろうが!明日は15人も手伝いの衆が来るんだ。飯は誰がたくんじゃ!!」 
姑女の声を背におせんさんは泣きなが ら峠をこえました。

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よく日、葬式をすますと、おせんさんはすぐ実家を出ました。両親のいない家に自分の 
居場所がないことを感じとったのです。村が見える峠の曲り角で、おせんさんは両親との
思い出にわかれをつげました。そのかわりに泣きながら越えた、この峠道が 
重いかたまりになって、おせんさんの心のそこに残ったのです。

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施設の内田君がやっとおせんさんにおいつきました。おせんさんは歩きつかれ庚申塚 
の前に頭をかかえ、すわりこんでいました。やがて車でむかえに来ためぐみさんが
「おせんさん、つかれたでしょ。お茶のんで 」おせんさんはすがるような悲しい目で
めぐみさんを見て「おごっそう」といって涙を流しました。

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帰りの車の中で、おせんさんは安心したのか、めぐみさんの肩にもたれ、
じっとしています。窓の外を桜の花びらが嵐のように舞いおどっています。
"桜の花が散る頃は うらら うららと陽はうらら〜♪”とめぐみさんが小さい声で歌っていると、
いつかめぐみさんの手の上にゴツゴツしたおせんさんの手がのっていました。 

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今日もおせんさんは おせんファッションで出かけました。公園を歩いていると、ベンチで休 
んでいたお年よりがとつぜん「おせんさん11 おせんさんじゃなしかい」と声をかけたのです。 
はじめは、ぼうっとしていたおせんさんが「あっ!! お、およねさんかえ」といって手をさしのべました。
それは娘さんにひきとられていった仲よしだったあのよねさんだったのです。
めぐみさんはびっくりしました。おせんさんの気おくは残っていたのです。

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施設に近い町にすむおよねさんは、それから週2回ディサービスに来るようになりました。 
そして2人で話をしながら、花だんや空地の草とりをするようになりました。
おせんさんの 徘徊もいつかなくなり、しっかりしてきました。 
めぐみさんがお茶を持っていくと、「ここは土がいいからあき地にしとくのはもったいないね、
ミニトマトでも作ったらどうかね」 2人の顔は汗でいきいきと輝やいていました。

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今日は入所している人達の検診日です。およねさんが娘さんに送られてくると、ちょうどおせんさんが病院に行く
バスにのりこむところでした。「あ、およねさんよう、おれ検診に行くから待ってておくれやな、すぐ帰えるからな」
そしてニコッと笑ったのです。おせんさんがここに来てはじめて見せた笑顔でした。 
めぐみさんはおどろきと感動で胸があつくなりました。

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仕事が一段落して、みんながお茶をのみながらおよねさんからおせんさんの話をきいています。 
話が終るとみんなふうっと深いため息をつきました。
「68年間もそんなつらい思いを胸にしまっていたなんて、苦しかったでしょうね」 
「およねさんが来てから、おせんさんはすごくかわったよね」
「ほんと、人は人とかかわりあってこそ生きていけるのね。
それがなかったらさびしい人生になるのね」
みんなは雨にぬれているアジサイを見ながら心からそう思ったのでした。
おしまい
 

紙芝居制作者の赤澤節子さん

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