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チリよ、喜びはもうすぐやって来る (15) 死の文化から生の文化へ

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(15) 死の文化から生の文化へ

 「ノー」の番組のこうした明るさ、喜び、豊かな人間性は「ノー」の運動全体を特徴づけるものであった。「ノー」の運動のシンボルとなったのは、十六政党の代表をつとめるキリスト教民主党のエイルウィン総裁ではなく、シンガーソングライターのフロルシータ・モトゥーダだった。彼は「ノー」の運動の主題曲の一つとなった「ノーのワルツ」の作詞者であり、あらゆる場で自らこの歌を歌った。ヨハン・シュトラウス作曲の「美しき青きドナウ」のメロディーで「チリ中がノーと言い始める」と歌い始めるこの「ノーのワルツ」は、軽快なリズムにのせて「ノー」を叫ぶことで、本来は否定語である「ノー」という言葉に明るさと希望を与えた。
 「ノー」の集会があるたびに、モトゥーダは大統領の肩章を身につけ、上は燕尾服、下はタイツ姿というコミカルな格好で舞台に上がり、女声コーラスをバックに、ユーモアたっぷりにこのワルツを歌った。九月四日の「ノー」の大集会では、母親のアジェンデ大統領未亡人と一緒に帰国したばかりのイサベル・アジェンデが、社会党幹部で「民主主義をめざす党」(PPD)党首のリカルド・ラゴスを相手に歌にあわせて「ノーのワルツ」を踊った。モトゥーダは他にもピノチェトを皮肉った歌を色々つくった。いずれも、サンバをはじめとする軽快なリズムの曲である。サンバのリズムで「あの人は大統領なのに外国訪問に出かけることがない。誰も迎えたがらない。だれも会いたがらない」とやるのである。これらの歌を集めて売り出されたカセットはあっという間に売り切れてしまった。
 「チリよ、喜びはもうすぐやって来る」にしろ、あるいは「ノーのワルツ」にしろ、「ノー」の運動の主題曲となった歌は、歌詞の面でもメロディーの面でも、人民連合のテーマ曲だった「ベンセレモス」とは対照的である。その明るさ、ユーモアは、「ベンセレモス」の「祖国を裏切るよりわれらは死を選ぶ」といった歌詞に見られる気負った悲壮さとは異質のものだ。
(つづく)
<有延出(高橋正明) 『文化評論』 1989年1月号>
 
モトゥーダ
フロルシータ・モトゥーダ


VALS DEL NO Florcita Motuda "Por la Paz y Justicia Social en Latinoamerica"
ノーのワルツ フロルシータ・モトゥーダ "ラテンアメリカの平和と社会正義のために"



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