(13) 事実の持つ力
「ノー」が依拠しているのは事実の持つ力である。「ノー」の番組を貫いているのは、チリの本当の姿を客観的に、事実をもって語らしめていくという明確な姿勢である。
「ノー」の番組はいたずらにスローガンを叫ばない。「ピノチェト政権はブルジョアの政府だ」と告発する代りに、ポブラシオンの状況を映像で描き出す。「ピノチェト政権は大嘘つきである」と絶叫する代りに、粗末な堀立小屋でポブラシオンの住民が見ている白黒テレビから政府の宣伝番組が流れてくる場面を見せる。
「ノー」の口調は絶叫型でも告発型でもない。「独裁打倒」と叫ぶ代りに、「ノー」は「チリよ、喜びはもうすぐ来る」と呼びかける。
何人もの警官が一人の青年を警棒でメッタ打ちしている記録フィルムの映像がスローモーションで出る。青年にスポットがあたって画面がストップし、ナレーションが入る。「彼はチリ人だ」。次いで警官にスポットがあたって、同じナレーションが入る。「彼もまたチリ人だ」。そしてこう続ける。「どちらも自分の信念のためにたたかっている。これらの人々は平和に生きる権利がある。自分の信じることのために働く権利がある。チリ人が互いに怖れを感じることがなくなった時、祖国は偉大になるだろう」。女性の声が続ける。「私たちは和解を望んでいる。だれもがチリ国民だ」。
警察の弾圧を声高に非難する代りに、だれもが傷つけ合うことなく平和に生きることのできる社会を実現するよう呼びかけている。そこにあるのは、自分の視点を絶対化してその正当性を言い張る態度ではなく、自分の立場を客観視しつつ、その深く信じるところを誰の心にも響く言葉で説いていく姿勢である。そこには固い信念と柔らかい心がある。
(つづく)
<有延出(高橋正明) 『文化評論』 1989年1月号>
「ノー」が依拠しているのは事実の持つ力である。「ノー」の番組を貫いているのは、チリの本当の姿を客観的に、事実をもって語らしめていくという明確な姿勢である。
「ノー」の番組はいたずらにスローガンを叫ばない。「ピノチェト政権はブルジョアの政府だ」と告発する代りに、ポブラシオンの状況を映像で描き出す。「ピノチェト政権は大嘘つきである」と絶叫する代りに、粗末な堀立小屋でポブラシオンの住民が見ている白黒テレビから政府の宣伝番組が流れてくる場面を見せる。
「ノー」の口調は絶叫型でも告発型でもない。「独裁打倒」と叫ぶ代りに、「ノー」は「チリよ、喜びはもうすぐ来る」と呼びかける。
何人もの警官が一人の青年を警棒でメッタ打ちしている記録フィルムの映像がスローモーションで出る。青年にスポットがあたって画面がストップし、ナレーションが入る。「彼はチリ人だ」。次いで警官にスポットがあたって、同じナレーションが入る。「彼もまたチリ人だ」。そしてこう続ける。「どちらも自分の信念のためにたたかっている。これらの人々は平和に生きる権利がある。自分の信じることのために働く権利がある。チリ人が互いに怖れを感じることがなくなった時、祖国は偉大になるだろう」。女性の声が続ける。「私たちは和解を望んでいる。だれもがチリ国民だ」。
警察の弾圧を声高に非難する代りに、だれもが傷つけ合うことなく平和に生きることのできる社会を実現するよう呼びかけている。そこにあるのは、自分の視点を絶対化してその正当性を言い張る態度ではなく、自分の立場を客観視しつつ、その深く信じるところを誰の心にも響く言葉で説いていく姿勢である。そこには固い信念と柔らかい心がある。
(つづく)
<有延出(高橋正明) 『文化評論』 1989年1月号>
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