「アラゴン選集」序文
はじめに
現代のフランス詩人たちのなかで、ルイ・アラゴンほど多産豊𩜙でしかも文学史的にも大きく画期的な足跡を残してきた詩人は、他にいない。まさに今世紀のフランスのみならず世界の最大の詩人だといえよう。
ブルトン、エリュアールらと始めたシュルレアリスム運動においては、誰よりも反抗的で果敢に<文学の革命>をなしとげ、さらにコミュニストに転じてからは、政治的社会的現実の変革をめざす<革命の文学>に全力をそそいだ。詩だけではなく、バルザックの『人間喜劇』をもしのぐ膨大な連鎖小説『現実世界』(大作『レ・コミュニスト』を含む)に取り組み、社会主義レアリスムの驚異的成果を提示した。第二次世界大戦下においては、誰よりも激しくレジスタンス運動を展開し『エルザの眼』その他によって、祖国愛と妻への愛を溶融し強化した<抵抗文学>を開化させた。そして八十歳を過ぎた現在なお、その詩的熱情の火を高々とかかげつづけている。
われわれは、この偉大な<抵抗>と<愛>の詩人、巨匠ユゴーをも超える大詩人への尽きない敬愛をこめて、ここに彼の詩業の大半を展望し総括する選集全三巻を編訳刊行し、われわれの熱い共鳴と讃嘆を証そうとするものである。彼の文学業績の全貌をさぐるには、その作品群はあまりに厖大だ。せめて詩業に的をしぼり(とはいえこれまた膨大なものゆえ)代表的な重要な詩集や詩論をいくつかの<柱>に、生涯の各時期の産物を可能なかぎり採録・編集することにした。すなわち、アラゴンの詩的活動の諸期を、大きく三区分し、Ⅰ〔シュルレアリスムからコミュニスムヘの移行期と、第二次世界大戦にいたる時期〕Ⅱ〔大戦下レジスタンス時代から戦後にいたる時期〕Ⅲ〔以後今日までの活動期〕として、それぞれの時期の作品を本書各三巻に配分・収録した。重要な詩集・詩論はもちろん、これらを全訳したが、他の詩集・詩論もできるだけ多く採録すべく努力し、それらは抄訳のかたちをとった(標題下に〔全〕と記してないものは抄訳である)。未紹介作品も当然、少なくない。
アラゴンの詩集・詩論・小説・政治論文、それらのいくつかは既にこれまで個々に、あるいは部分的に、邦訳刊行されてきているが、詩集・詩論をこれほど大がかりな構想で全体的に把握しようとしたものは、この選集三巻が最初であろう。翻訳面・選択編集面、ともに多くの困難と労苦を経験したが、われわれの努力と誠意を理解していただければ幸いである。原書は、これまで刊行されてきたGallimard、Seghersその他の初版を拠りどころとし、Livre Club Diderot の全詩集その他諸選集を参考にした。作品の配列は、おおむね年代順になっている。各巻の翻訳は、大島博光・服部伸六・嶋岡晨の三名が、詩集単位で分割担当し、年譜・解説は大島が担当した。なお、関係写真は主としてEUROPE誌(一九六七年二・三月号「エルザ・アラゴン特集」)所載のものである。
混迷の深い今日の詩的状況において、この選集はただアラゴンの詩業の総体を鮮明にするだけでなく、あるべき理想の方向へ詩と詩人を導く道標となるだろう。
編訳者
(「アラゴン選集Ⅰ 1978年 飯塚書店)

はじめに
現代のフランス詩人たちのなかで、ルイ・アラゴンほど多産豊𩜙でしかも文学史的にも大きく画期的な足跡を残してきた詩人は、他にいない。まさに今世紀のフランスのみならず世界の最大の詩人だといえよう。
ブルトン、エリュアールらと始めたシュルレアリスム運動においては、誰よりも反抗的で果敢に<文学の革命>をなしとげ、さらにコミュニストに転じてからは、政治的社会的現実の変革をめざす<革命の文学>に全力をそそいだ。詩だけではなく、バルザックの『人間喜劇』をもしのぐ膨大な連鎖小説『現実世界』(大作『レ・コミュニスト』を含む)に取り組み、社会主義レアリスムの驚異的成果を提示した。第二次世界大戦下においては、誰よりも激しくレジスタンス運動を展開し『エルザの眼』その他によって、祖国愛と妻への愛を溶融し強化した<抵抗文学>を開化させた。そして八十歳を過ぎた現在なお、その詩的熱情の火を高々とかかげつづけている。
われわれは、この偉大な<抵抗>と<愛>の詩人、巨匠ユゴーをも超える大詩人への尽きない敬愛をこめて、ここに彼の詩業の大半を展望し総括する選集全三巻を編訳刊行し、われわれの熱い共鳴と讃嘆を証そうとするものである。彼の文学業績の全貌をさぐるには、その作品群はあまりに厖大だ。せめて詩業に的をしぼり(とはいえこれまた膨大なものゆえ)代表的な重要な詩集や詩論をいくつかの<柱>に、生涯の各時期の産物を可能なかぎり採録・編集することにした。すなわち、アラゴンの詩的活動の諸期を、大きく三区分し、Ⅰ〔シュルレアリスムからコミュニスムヘの移行期と、第二次世界大戦にいたる時期〕Ⅱ〔大戦下レジスタンス時代から戦後にいたる時期〕Ⅲ〔以後今日までの活動期〕として、それぞれの時期の作品を本書各三巻に配分・収録した。重要な詩集・詩論はもちろん、これらを全訳したが、他の詩集・詩論もできるだけ多く採録すべく努力し、それらは抄訳のかたちをとった(標題下に〔全〕と記してないものは抄訳である)。未紹介作品も当然、少なくない。
アラゴンの詩集・詩論・小説・政治論文、それらのいくつかは既にこれまで個々に、あるいは部分的に、邦訳刊行されてきているが、詩集・詩論をこれほど大がかりな構想で全体的に把握しようとしたものは、この選集三巻が最初であろう。翻訳面・選択編集面、ともに多くの困難と労苦を経験したが、われわれの努力と誠意を理解していただければ幸いである。原書は、これまで刊行されてきたGallimard、Seghersその他の初版を拠りどころとし、Livre Club Diderot の全詩集その他諸選集を参考にした。作品の配列は、おおむね年代順になっている。各巻の翻訳は、大島博光・服部伸六・嶋岡晨の三名が、詩集単位で分割担当し、年譜・解説は大島が担当した。なお、関係写真は主としてEUROPE誌(一九六七年二・三月号「エルザ・アラゴン特集」)所載のものである。
混迷の深い今日の詩的状況において、この選集はただアラゴンの詩業の総体を鮮明にするだけでなく、あるべき理想の方向へ詩と詩人を導く道標となるだろう。
編訳者
(「アラゴン選集Ⅰ 1978年 飯塚書店)

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