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『ネルーダ詩集』解説Ⅱ Neruda's Poems—Commentary 2 (4) インカの滅亡

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インカの滅亡

マチュピチュ





 インカの滅亡

 十六世紀のなかば以来、南アメリカの人民にのしかかった不幸ほど、言語を絶したものはない。なかんずく、インカ帝国滅亡の歴史ほどに、スペイン征服者の残虐さと非道な収奪とを物語っているものはない。
 一五三二年、インカ帝国では皇位をめぐって、兄弟が血を流して争っていた。正統な皇位後継者であるワスカルを、異母兄のアタワルパがうち破って、みずから皇帝を宣言した。ちょうどその時、スペインの豚飼い、フランシスコ・ピサロが、二百の手勢と七十六頭の馬をもって、インカのツンペスに上陸した。ピサロは、インカの内紛の機に乗じて、アタワルパを甘言をもって、カハマルカにおびき寄せる。アタワルパは、武器をもたない部下を連れて、ピサロに会いにくる。しかしそこに待っていたのは腹黒い謀略と虐殺であった。

 剣と十字架のもとに
 百千のペルー人が仆れた
 血は アタワルパの服を濡らした
 
 冷酷なエストラマドラの豚飼い ピサロは
 インカの両手を縛りあげた
 夜がペルーの上に降りてきた
 まっ黒い墨のように
(『大いなる歌』─『インカの最期』)

 ピサロは、捕虜にしたアタワルバの身代金として、三つの部屋を埋める黄金を要求する。皇帝の生命を救おうと、金銀の財宝を積んだ車や、リャマのキャラバンが、カハマルカをめざして蜿蜿《えんえん》とつづいた。しかし、身代金を手にしたピサロは、アタワルパを火刑台に送る。こうしてインカ帝国と、数千年の歴史のなかで築かれたアンデス文明は一瞬にして崩壊したのである。
 マチュピチュの大遺跡は、インカ帝国の謎にみちた神秘的な遺跡として知られている。幻の空中都市といわれるこの大遺跡は、一九一一年、アメリカの考古学者ハイラム・ビンガムによって発見されるまで、アンデス山中、ビルカバンバの山頂にひっそりと眠っていた。一五三二年、インカ最後の皇帝アタワルパが処刑されてから四百年の歳月、この山頂の石の都市は、無人のまま、誰にも知られずに放置されていたのである。
 ネルーダは、十二篇の詩から成る『マチュ・ピチュの頂き』をかいて、岩の下に眠っているむかしの人たちに呼びかけ、かれらの呻きと涙に想いをはせているが、それはそのまま、現在、未来にわたって、しいたげられている人民に呼びかけている闘いの歌ともなっている。

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