人民戦線政府の樹立(一九三八)
労働運動の勃興
以上のような状況の中でチリ人民は長い間労働者階級を中心にして、帝国主義とこれに従属する大資本家、大地主にたいしてたたかってきました。
チリでは、ラテン・アメリカ諸国のなかでも、早い時期から労働者階級が成長しはじめました。その中心地となったのは北部の鉱山地帯です。彼らはすでに一八九〇年、最初の全国的ゼネストをたたかいました。その前一八八七年、労働者の要求を一部とり入れた民主党が結成されています。この党は右のような人民のたたかいを反映して、党内に社会主義的なグループを生みだし、その指導者となったのがのちの共産党の創立者ルイス・エミリオ・レカバレンです。一九〇六年にはこのグループは社会民主党を結成、第二インタナショナルに加盟しました。社会民主党はさらに、一九〇九年から社会主義労働者党(POS)として活動を展開しました。レカバレンに指導されたチリの勤労人民は活発なたたかいをつづけ、ついに一九二一年チリ共産党を結成し、第三インタナショナル(コミンテルン)に加盟したのです。
人民のたたかいの発展を前にしたチリの支配階級は、一九〇八年、階級協調的な組合としてチリ労働者大連盟(GFOCH)をつくり、戦闘的な労働者の活動をおさえようとしました。しかし、労働者たちはこの組合を内部から変革して、戦闘的なチリ労働者連盟(FOCH)を成立させました。
チリ社会の転換期
一九二〇年代にはいって、チリ人民のたたかいは新しい段階をむかえます。支配階級の支柱となっていた地主階級とこれに結びついたイギリス帝国主義は、チリの資本主義の発展にともなうブルジョア階級の成長とこれを支持するアメリカ帝国主義の進出に出会うことになります。
こうしたなかで、一九二四年、軍事クーデターによってイバニェス・デル・カンポの軍事独裁政権が成立します。イバニェスは、地主階級をおさえてブルジョアジーおよびアメリカ帝国主義の要求をとり入れながら、一方では共産党の弾圧をはじめとして、労働者階級、農民その他の勤労人民には生活苦をおしつけました。
統一戦線運動の萌芽
しかしながら、一九二五年には大統領選挙を実施せざるをえなかったのです。この選挙で共産党は統一戦線結成のために先頭にたち、FOCH、「小工業者連盟」、「小作人連盟」をはじめとする多くの大衆組織を結集した「勤労者全国委員会」(CNA)の結成に成功しました。これはチリにおける統一戦線運動の萌芽であったといわれています。
そして、ホセ・サントス・サラスを進歩勢力の統一候補に立て、反動勢力の代表エミリアーノ・フィゲロアと対決して大統領選挙をたたかいました。結果的には敗れたものの、サントスは約三〇パーセントの得票率を獲得して、人民統一の威力を示しました。
一九三八年の人民戦線政府
統一戦線組織CNAの崩壊後、共産党が非合法化されたなかで、いくつかの社会党と名のる組織が生まれ、これらはイバニェスの組織した御用組合「合法労組全国連合」(CNSL)のなかで、影響力を拡大していきました。一九三二年六月には、社会党の一指導者マルマドゥーケ・グロベが軍事クーデターをもって政権をにぎり「社会主義国宣言」を行ないますが、すぐに逆クーデターで倒されてしまいました。グロべらは一九三三年チリ社会党を結成してCNSLの指導を強化します。一方、一九三一年に合法化された共産党の指導によってふたたび活発な活動を開始したFOCHは、一九三四年、CNSLなどの労働組合組織に統一を呼びかけました。そして、一九三六年、FOCHとCNSLを中心として、チリの組織労働者の圧倒的多数を結集するチリ労働者連盟(CTCH)が結成されました。
それに先だって共産党は一九三五年八月、人民戦線結成の呼びかけを行ないました。当時、共産党に対立していた「左翼政党ブロック」内の反共主義、トロツキズムは克服され、一九三六年三月、人民戦線が生まれました。これには、「左翼政党ブロック」加盟の諸政党、共産党、急進党、CTCHが参加しました。そして、右翼反動勢力の妨害と軍部ファシストのクーデターの試みをはばみつつ、一九三八年の大統領選挙には急進党のペドロ・アギーレ・セルタを統一候補として立て、約四千票の差で第一位を獲得、スペイン、フランスにつぐ人民戦線政府を樹立したのです。
しかし、支配階級の激しい攻撃、人民戦線に参加する諸政党、労働組合の団結の弱さ、人民戦線政府を下からささえる人民の運動の弱さなどのために、人民戦線政府は一九四一年一月崩壊し、急進党の一党政権に変質しました。
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