ネルーダへの悲歌
大島博光
とうとう 悲しい知らせがやってきた
サンティアゴの 血の匂うむごい夜
すばらしいギターが 鳴りやんだ
パブロ・ネルーダが 死んだのだ
きみがあんなに楽しげに歌っていた死が
そして おれたちが案じ 恐れていた死が
とうとう きみの上に来てしまった
山犬どもの荒れ狂う 嵐のなか
かってロルカを グラナダの野で
撃ち殺したと おんなじ黒い手が
いままた きみを奪いさったのだ
きみがあばきつづけた 憎みつづけた黒い手が
かつてスターリングラードの英雄たちに
きみがささげた熱い愛の歌は
いま サンティアゴの市民たちの
手榴弾となって 飛ぶだろう
だが 死んでも君は歌っている
きみを葬る サンティアゴの墓地に
インターナショナルが湧きあがったのだ
銃剣の林に包囲された その中で
その歌声はひびき こだまするだろう
アンデスのきこりたちの胸にも
アントファガスターの塩坑にも
歌声は 歌声を呼びさますだろう
だからこそ 奴らは焼き払うのだ
たくさんの人類の慧智といっしょに
きみのひなげしと光にみちた詩集をも
ヒットラーの ひそみにならって
だが バルパライソの船員も漁師も
銅山の労働者たちもその胸のなかに
きみの歌を たたみこんでいるのだ
風さえも きみの声をまねるだろう
長い暗い夜をさまよっていたときも
ひとを酔わせる愛の歌とともに
きみが歌いつづけ 呼びつづけた
夜明けと春はきっとやって来るだろう
もうきみはお尋ね者の詩も歌えない
きみは 愛するチリの大地のなか
きみの望みとおり 黄玉(トパーズ)となり
愛するひなげしを抱いているだろう
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