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そしてわたしがつぶやく──  アラゴン『パブロ・ネルーダへの悲歌』

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 そしてわたしがつぶやく


『アラゴン選集』 第Ⅲ巻 大島博光訳)

アラゴン




  そしてわたしがつぶやく──

わが友パブロよ きみはあの心うずかせる話しぶりで
  おのずからなる奇妙な言葉で 語った
「あるのはただ苦しみの世界 血まみれの世界ばかり
  どんなに遠く行っても 何んにも変りはしない」と

さんざしの刺(とげ)のように 苦(にが)い痛みの叫びをあげさせる
  あの苦しみを わたしもなめつくした
すべての言葉 すべての叫び すべての足跡に誤ちがあり
  そこに魂は ふとおのれの姿を見いだすのだ

わが友パブロよ われらはこのあやふやな世紀の人間だ
  尾根組を しっかりと支えるものとては何んにもない
空の高みに 白みかける朝を見たと思ったら
  それは 速くの自動車(くるま)の ヘッドライトなのだ

われらは 太陽をふところに入れて歩く 夜の人間だ
  太陽は われらの身の奥で われらを焼くのだ
もう閻のなかを おのれの膝も分からぬほど 歩いたのに
  来たるべき世界には まだ辿りつけぬ

わが友パブロよ 時は流れ すでにわれらの声も薄れ
  心臓の脈うつ音さえ もう きこえはしない
すべてはあったとおり すべては見たとおりに過ぎず
  すべては あのお芝居に過ぎなかったのか
ほんとに こんな酷(むご)い風景に甘んじていられるのだろうか
  生とは せいぜい生きながらえることらしく
  われらは せいぜい黄金だと思って 鋼をうたった 
  魔法のとけた魔法使いででもあったのか

わが友パブロよ なんとわれらは耐えてきたことか
影は われらの前に伸びる 長く伸びる
わが友パブロよ なんとわれらⅧ耐えてきたか
われらの夢に われらの夢に わが友パブロよ

(『アラゴン選集』 第Ⅲ巻 大島博光訳)


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