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アラゴン  棘 (『告別詩集』)

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棘1

棘2


(自筆原稿)

*『告別詩集』(1982年)はアラゴンが生前に刊行した最後の詩集。「棘」は工ルザの死を嘆き悲しんだ歌になります。
工ルザの死・『告別詩集』
 
夕暮れ






 棘
                           ルイ・アラゴン  大島博光訳 
   Ⅰ
さあ 呻めくのを止めろ
呻めく男ほどに 滑稽なものはない
泣く男のほかには
   Ⅱ
わたしはさまよう
影の匕首をふところに
わたしはさまよう
記憶のなかの猫といっしょに
わたしはさまよう
花も色褪せた花瓶や
黄色くなった写真帖を抱いて
わたしはさまよう
もう繕《つくろ》えぬ破れ服を着て
わたしはさまよう
大きな穴の開いた心臓を抱いて
   Ⅲ
わたしを信じてくれたまえ
ひとが考えるほど何も悪くはならない
   Ⅳ
詩は短かければ短いほど
肉のなかに深く喰い入る
   Ⅴ
この詩人を都市《まち》から追放しなければならぬ
都市には席がない
苦しみの模範などのためには
   Ⅵ
息苦しい人びとのためにわれわれはあらゆる手を打った
新鮮な空気を求める人びとのためにすべてを講じた
夜にむかって窓をつくり
いたるところに無料診療所をひらいた
だがあの耳ざわりな呻き声は勘弁してくれ
   Ⅶ
微笑みほどに美しいものはけっしてない
顔をゆがめてでも
きみは美しくあろうとはしないのか
   Ⅷ
その傷ついた足どりはよそへ運んでゆけ
   Ⅸ
その血を流している男から
きみが眼をそむけるのは当たりまえだ
   Ⅹ
すべてはまさに己れの場所にいる
少なくとも そうなるだろう
   Ⅺ
乞食よ
きみの伸ばした手を洗いたまえ
   Ⅻ
おれはつらい と言う者は
他の人たちのことを忘れているのだ
   ⅩⅢ
黙るだけでは充分ではない
ほかのことを言うすべを学ばねばならぬ
   ⅩⅣ
ひとの眼を楽しませないような
植物に呪いあれ
同じように花を咲かせずにいる
権利は詩人にない
   ⅩⅤ
  略
   ⅩⅥ
わたしはまた眠れない人びとのために語る
彼らは孤独ではない わたしが彼らに似ているのなら
わたしはまた死に損《そこな》った人びとのために語る
わたしをエゴイストだとどうしてきみたちは言うのか
   ⅩⅦ
人生は棘だらけだ
それがやはり人生なのだ
(『告別詩集』一九八二年)
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