剛直さと優しさ 大島博光詩集『冬の歌』
この詩集には四十七編の作品が収録されているが、そのほとんどは『大島博光全詩集』(一九八七年)以後に書かれたものである。
「きみは 柔らかいからだを弓なりにして/狂った若者を 受けとめてくれた/雪のなかに 泉を探していた牡牛は/きみの唇でやっと渇きを癒した」
これは冒頭におかれている「愛について」の一連だが、あとにつづく詩行を見ると、弓なりになって著者をささえてくれたのは、現在パーキンソン病で入院中の静江夫人であることがわかる。詩集にはその静江夫人を歌ったものが多い。さきの時句にも見られるように、その愛の歌は表現が大胆であり、著者の率直な思いが出ていて、美しい抒情の世界を形作っている。それがこの詩集に深い陰影をあたえているのである。
本書はⅠからⅦまで主題別に編まれているが、Ⅲの静江夫人とのことをうたった「冬の歌」をひとつの柱とすれば、もうひとつの柱は党およびそのたたかいを歌ったものであろう。それはⅤ「風刺の季節」、Ⅵ「わたしは党をうたう」などにある諸編である。
それらの作品を読んでいると、これまで著者が精力的に紹介してきたネルーダ、アラゴンらの作品にある剛直さと優しさが、著者の作品そのものに流れているのが見えてくる。「人類の生そのものが問われているときこそ/『詩は実践的真理を目的とすべきだ』と」(「ヒロシマ・ナガサキから吹く風は」)と、著者は呼びかけている。それは核の問題だけにとどまるまい。
(津森太郎・詩人)
- 関連記事
-
-
ナイーブな詩精神の真骨頂──大島博光詩集『冬の歌』書評 土井大助 2023/02/18
-
冬にうち勝つ「冬の歌」 コラム『朝の風』 2023/02/17
-
剛直さと優しさ 大島博光詩集『冬の歌』 津森太郎 2023/02/10
-
愛とたたかいを編む 大島博光詩集 冬の歌 小森香子 2023/02/09
-
この記事のトラックバックURL
http://oshimahakkou.blog44.fc2.com/tb.php/5458-42c2ed79
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック