夜の『歌声』
■ワシは大島先生に見てもらおうと詩を書いて持って行ったんだ。その詩のフレーズに「夜の太陽」と書いたのを読んで、博光氏はジロッとワシの顔を見て「これは君のコトバか?」と問いただした。私は「ハ、ハイ」と答えたが、心の中では驚き恐ろしくなってしまった。
実は「夜の太陽」というのは、善光寺前の藤屋旅館のウィンドウに一枚の絵が飾られていて「夜の太陽」という題がついていたのを見て、それを拝借したものだった。
それから私は大島先生に心酔するようになったんです。
■大島先生は党に入って、間もなく『歌声』という詩誌を出すんですが、それから少し元気になった。しかし元気になっても金は一銭もなかった。奥さんの静江さんはイモも食えなくて苦労したんですよ。
実家から金を出してもらって三鷹に家を造ってもらって、東京に出て、やっと息ができるようになったんじゃないか。大島先生の出していた『歌声』にはワシも投稿しました。名の知れた詩人が『歌声』に詩を発表していましたよ。
フランスの起床ラッパ
■上京した翌年の昭和二十六年に『フランスの起床ラッパ』が出版された。フランスのレジスタンス詩人アラゴンの詩を大島先生が訳されたものです。
■ナチスドイツによって占領されたフランスでコミュニストとして抵抗運動を闘ったアラゴンの「詩によってフランス人民に呼びかけた」詩集です。
〈おお夕暮れのわが祖国の大地の沼よ〉
フランスが沼のように混沌としていた状況を歌った詩の書き出しです。『フランスの起床ラッパ』は大袈裟に言うわけじゃないが、戦後詩のひとつの事件といってよいくらいです。日本中の進歩的な人々はビックリして起床ラッパで目を覚まされた。それこそ多くの人々が感動しました。
〈神を信じたものも信じなかったものも共に倒れた〉
〈幸福な愛はどこにもない
しかしそれこそわれら二人の愛なのだ〉
そんな詩のリフレインの一節を若者たちが口ずさんだ。
(花束売ってにつづく)
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