―大島さんは師にそれだけの歴史があって、よく歌詞をかかなかったですね。
「かきましたよ。でも抵抗詩の翻訳にリズムが生きてるとあなたがいうなら、そんな所に西条先生の影響があるんでしょう。歌詩がかきたいからって、誰もが歌詩人になれるわけじゃあない。先生は神楽坂で新内や小唄を聞いて育った環境が預かって力あったそうです。むろん詩に比べたら歌詩はこれからですが。」
―師匠は大島さんがコミュニスト詩人のみちへ向かうについて、何かいわれましたか?
「何かって、何を?」
―いいとか、やめろとか。
「詩人がそんなことをいうわけ、ないじゃないか。」
―でも革命家のみちは大変ですよね。
「そうね。相当な覚悟が必要です。しっかりやれ、とカンパをもらいましたけどね。」
―話は変わりますが、パブロ・ネルーダはすばらしい詩人ですね。
「ヨーロッパのシュルレアリスムが、中南米へ行って、またヨーロッパに帰ってくる。発祥の地に影響したのは、ネルーダやシュペルビエル、そんなに多くはないけれど、ネルーダは学歴もないのにあれだけのすばらしい詩をかいて、スペインの内戦では、人民戦線を支持したんだ。ロルカも友人でね。ネルーダは今はラテン・アメリカで最高の詩人といえる。」
―エロスの詩もたくさんかいているそうですが、訳して発表できますか?
「そうねえ。ぼくらの政治的、文学的水準がネルーダのラインに達する時、それは可能になるだろうけれど…。」
―だからこそ、訳が必要だと思うんです。政治詩はいいが、エロスの詩がタブーなんておかしい。エロスとユーモアは、人間の生命樹だとぼくは思います。
「なるほどね。」
―それから学歴のことですが、大関松三郎の『虫けら』なんて、すばらしいじゃないですか。ぼくは『かなりや』に劣らない作品だと支持します。
「やはり時代だなあ。若さってすばらしい。あなたがエロスの詩をかくことを支持し、期待します。ぼくはできれば訳したいな。」
―これからどんな詩をかいて行きたいですか?
「そうねえ。山道にいるでしょう。斑猫のような、美しくてわれひとの道標となる詩です。」
一九六九年三月・記
(長野詩人会議『狼煙』六十二号)
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