伐りはらわれた林
大島博光
★
絶望にそめられた赤い村
君のまわりに出没し
とりまきとびまわり
躍りまわり
歌いまわる
幻影よ悪夢よ傲慢よ
花よ焔よ髪よ樹よ
君を支えていたすべての腕
君を囲んでいたすべての眼
鳥よけものよ魚よ血よ
林は伐りはらわれてしまった
ほかの愛の村で
悪夢に咬まれた君の手をふれ
折られた君の枝をふれ
焔の舌をふるわせよ
絶望の腹をひき裂けよ
★
白夜にさめた私の眼
その瞼は閉じることを知らない
毒麦の穂は胸を破って突きいで
眼ざめながら夢の穂はなびく
蒼ざめた頬の影
欲望は駆けめぐる
私の夢わななく扉のなか
鋏は鳴っている
ふるえる歯よ しずまれ
針尖よ かくれよ
伐り倒された樹木の幹のなか
樹液はふきあげている
(『新領土』16号 昭和13年8月)
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