fc2ブログ

世界文学めぐり─ ルイ・アラゴン「フランスの起床ラッパ」

ここでは、「世界文学めぐり─ ルイ・アラゴン「フランスの起床ラッパ」」 に関する記事を紹介しています。
世界文学めぐり
ルイ・アラゴン「フランスの起床ラッパ」

抗独闘争のなかで

 フランスの大詩人ルイ・アラゴンの詩集「フランスの起床ラッパ」は、第二次世界大戦中の抗独闘争(レジスタンス)のなかで書かれ、人びとをはげまし、たくさんの人びとを抗戦に立ち上がらせた歴史的な詩集であり、反ファシズム闘争をうたった傑作であるといっていい。したがってそれはまた現代の武勲詩である。しかし、そこに歌われている主人公たちは、むろん王公や騎士でもなければ、将軍や提督でもなく、ふつうの鉄道員たちであり学生であり、あたりまえのフランス人たちであり、人民である。
 ナチス・ドイツ軍の鉄の手から祖国を解放する苛酷な闘争のなかで、「ふつうのフランスがへラクレスになった」のである。あるいはまた、思想・信条・党派のちがいを超えて人びとは腕を組み、カトリックの学生も共産党員の若者も、「祖国愛」において同じひとつの戦線に立ったのであった。この統一を歌った詩としては有名な「薔薇と木犀草」がある。

 神を信じた者も
 信じなかった者も
 ドイツ兵に囚われた あの
 美しきものをともに讃えた・・・

 この詩の献辞のひとつに「ギイ・モケーとジルベエル・ドリュヘ」とある。──モケーはまだ十七歳の共産党員の学生であった。一方、ドリュはカトリックの学生で、一九四四年七月、リヨンのベルクール広場において反独活動のかどで、ドイツ兵に銃殺された。そのとき彼のポケットにはアラゴンの詩集「プロセリアンドの森」が入っていた。のちにこの話をきいた無神論者のアラゴンは感動して、この詩とこの献辞を書くことになる・・・。
人間モラルを対置
 それから受難の学園をうたった「ストラスブール大学の歌」がある。ドイツ軍は、この大学を襲って多くの教授や学生を虐殺した。そこで大学はフランス中部のクレルモン・フェランに移転せざるを得なくなる。

 教えるとは 希望を語ること
 学ぶとは 誠実を胸にきざむこと

 アラゴンはこのように、教育の本質、人間モラルの根本を端的に的確にうたって、それをファシズムの暴力・野蛮に対置している。──「殺すことだけがやつらのただ一つの学問(シイアンス)だ」。
 それから、「幸せな愛はどこにもない」「責苦のなかで歌ったもののバラード」「ガブリエル・ペリの伝説」などの有名な詩が収められている。
 ファシズムの怪物がふたたびうごめいているこんにち、この詩集はいまもきわめてアクチュアルな意義と教訓にみちているであろう。
   (大島博光 詩人)

<掲載紙・日時不詳>
関連記事
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://oshimahakkou.blog44.fc2.com/tb.php/530-dc479b29
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック