「すべてを消し去ろう」――すべてを忘れ去ろうという、この絶望はどこからくるのか。この点についてリュク・ドゥコゥヌはその『エリュアール』のなかで単刀直入に書いている。
「この場合のエリュアールの事情について言えば、現実ははるかに単純なものだったと思われる。ガラがエルンストといっしょに出かけてしまったので、ポールは愛する妻の不在に耐えられず、孤独に我慢できなかった。そこで、この一種の逃亡によって彼女を呼びもどそうとしたのだろう……」
このときのポールとガラの間の状況について、のちにエリュアールの弟子となる女流詩人マドレーヌ・リフォは、歯に衣を着せない、つぎのような簡潔な言葉を述べている。
「彼が旅に出かけたのは、他《ほか》の人たちに尽すことにもううんざりしたからです」
ぼくはきみと別れた
だが 愛はまだぼくの前を歩いていた
ぼくが腕を伸ばすと
苦しみがやってきて 苦《にが》みはいやました
まるで 砂漠を飲むようだ
ぼくじしんと別れるために
(『愛・詩』)
結局、ポールの手紙に呼ばれて、ガラがシンガポールに迎えにゆく(サイゴンという説もある)。彼女はエルンストを連れてくる。彼らはいっしょにフランスへ帰る。ポールはふたたび父親のそばで自分の仕事に就き、また友人たちといっしょに詩人の活動を始める。まるで何ごともなかったかのように。
この旅について、エリュアールは後年「奇妙な旅」と言っているが、やはり何の説明もしない。彼の作品にも、旅のイメージはほとんど反映されていないのである。
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