詩と思想の理解に
マルガリータ・アギレ/松田忠徳訳
「パブロ・ネルーダの生涯」
「パブロ・ネルーダの生涯」は、アジアからスペインへ、ついでヨーロッパじゅうをさまよい歩いた、波瀾に富んだ詩人の生涯を、広範な資料を駆使して詳しく描いており、ネルーダが無政府主義者から共産主義者へと進み出てゆく過程や、共産主義者としての戦闘的な姿勢や、市民としてのゆたかな生活ぶりなどの細部が描かれていて、ネルーダの詩と思想を理解するのにも大きな助けとなる。それに、一九四七年ころ、時の大統領を弾劾したために官憲に追われる身となり、国じゅうを転々としながら「大いなる歌」を書きあげたエピソードや、教授や材木商人に化けて、馬にまたがってアンデスの峠を越え、アルゼンチンに脱出するくだりなどは、冒険小説のようにおもしろい。
またこの本には、ネルーダの初期の詩から、「地上の住みか」「心のなかのスペイン」「大いなる歌」「基本的なもののオード集」「百の愛のソネット」「イズラ・ネグラの思い出」「チリの石」など、あらゆる詩集から選りだされた詩や思い出の記や講演などもふんだんにちりばめられていて、そのまま解説付きのアンソロジーともなっている。それらの全体はあらためてネルーダの詩業の巨大さと豊穣さとを読者に思い知らせずにはおかない。
さらにこの本の大きな魅力のひとつは、著者マルガリータ・アギレ女史が、ネルーダ夫妻の友人であって、夫妻とともに詩人の故郷テムコを訪れた訪問記が書かれていたり、晩年のネルーダをイズラ・ネグラの家に訪れた親しい訪問記が書かれている点である。とりわけあとの訪問記は、あの一九七三年九月、チリの人民連合政府にたいするクーデターにつながる状況の中のネルーダの姿を伝えている。それは淡々と書かれているが、それだけにネルーダの怒りと悲しみ、チリの悲劇の深さが思いやられる。
(大島博光・詩人)
(新日本出版社 四六判 二五〇〇円)
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