この世でいちばんおかしな奴
ナジム・ヒクメット
兄弟よ、君はまるで蠍《サソリ》だ、
怖しい夜闇のなかに棲む
蠍のようだ。
兄弟よ、君はまるで雀だ、
些細《ささい》な心配事で胸を痛める
雀のようだ。
兄弟よ、君はまるで烏貝だ、
殻《から》に閉じこもったっきりじっとしている
烏貝のようだ。
兄弟よ、君は手強い奴だ、
火の消えた火山の口のようだ。
しかも君はひとつではないのだ、ああ、
五《いつ》つでもない、
何百万という数だ。
兄弟よ、君はまるで羊だ、
君の皮を着込んだ首切り人が
棍《こん》棒を振り上げてやってくると
仲間の群のなかへ急いで逃げ返るが
それから小走りに屠殺場へ行く、大威張で。
君は世の中でいちばんおかしな奴だ、
要するに、
魚よりももっとおかしな奴だ
海が何だか知らない魚よりもおかしな奴だ。
それにこの地上に悲惨がいっぱいなのも
これも君のお蔭というものだ、兄弟よ、
おれ達に食がなく、力つき果てるのも、
おれ達が血の出るまで皮をはがされるのも、
ブドー酒になるブドーのように潰されるのも、
君の犯したあやまちだといえるだろうか、
いやそうはいえない、
でもぜんぜん無関係だとはいわさぬぞ、
兄弟よ。
(服部伸六訳)
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