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書評「ネルーダ回想録 わが生涯の告白」

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(『赤旗』1976.7.5)
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個性が脈々と躍動
パブロ・ネルーダ著、本川誠二訳
ネルーダ回想録 わが生涯の告白

 さいきん『ネルーダ回想録』ほどに魅了されたものはない。世界をまたにかけて数奇な生涯を送った大詩人は、その「生涯の告白」を縦横無尽に、ユーモアにみちて、独特の語り口で語っている。チリ南部の森の中での少年時代、サンチアゴでの学生生活、アジアからヨーロッパにかけての外交官生活、とりわけマドリードにおけるスペイン戦争とファシズムとの出会い、それを機会に共産主義の道をえらびとる過程……出会った有名無名の友人たちとの交友録。そこにはロルカ、エレンブルグ、エリュアール、アラゴンなどの名が見られる。詩人はまた、愛のエピソードを語ることも忘れていないが、そのときの詩人のラテン的陽気さ、磊落《らいらく》さには驚嘆のほかはない。この回想録のおもしろさは、ネルーダの詩の魅力とおなじ根から生まれてきたものだ。そこにはつねに詩人の自我・個性が脈々と躍動している。しかも、ネルーダはつねに共産主義者の立場を積極的におし出している。それは、祖国と人民への愛というかたちをとって、じっさいの政治的体験をとおして語られている。詩人の祖国への愛は、祖国の自然、とりわけ少年時代を送ったチリ南部の森にたいする愛と結びついている。森のイメージは、かれの詩のなかにも回想のなかにも、生きいきと鮮やかに残っている。人民との結びつきについて言えば、ひとりの銅鉱労働者が詩人に手をさし出して「あなたが誰かうんとまえから知っていましたよ、兄弟」と言った。それはノーベル文学賞よりもすばらしい月桂冠だった、というエピソードほどに感動的なものはない。そしてアジェンデの死を語る、この回想録の最後の章が書きあげられたのは、あのチリ・クーデターの三日後、死の九日前であった。
   (大島博光 詩人) 
 (三笠書房 四六判・一二〇〇円)
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