マドリード防衛の歌
ラファエル・アルベルティ
スペインの心臓マドリードは脈搏つ
熱病患者の動悸で
きのう その血はすでに煮えたっていたが
きょう それはさらに熱く煮えたぎっている
もはやそれは眠ることもできない
もしもマドリードが眠ったら
いつか眼ざめようとしても
もうマドリードに夜明けはやって来ないだろう
おお マドリードよ 戦争を忘れるな
おまえの前に敵の眼があって
死のまなざしを投げかけているのを忘れるな
おまえの空を 鷹どもがうろつき
襲いかかろうとしている
おまえの赤い屋根のうえに
おまえの街まち 勇敢な人民のうえに
マドリードよ けっして言ったり
言いふらしたり 考えたりするな
スペインの血のなかで
血が雪に変わったなどと
おまえはずっとむかしから
勇気と雄々しさの泉を秘めてきた
力強いすばらしい川が
この泉から流れでるはずだ
もしもあの不幸な時が来たら
──そんな時は来ないだろうが
存亡の危機にある街々よ
世にも堅固な城塞よりも
もっと堅固になれ
人びとは 城のように
その額を銃眼とし
その腕を高い城壁となし
だれをも通さぬ城門となれ
スペインの心臓に すすんで
名乗り出ようとするものは来たれ
急いで! マドリードはすぐそこだ
マドリードは どのように
自分を守るか 知っている
足蹴《あしげ》にされ 爪でひっかかれようと
肘鉄砲をくらおうと
乱暴になぐりつけられ 噛みつかれようと
たくましい ひきしまった腹を仰向けに
岩乗なマドリードは タホ河の
緑の水のほとり ナヴァルペラル
シグエンサへとつらなるあたり
乱れとぶ弾丸は唸りをあげ
マドリードの煮えたぎる血を
凍らせようとする
マドリードよ スペインの心臓マドリードよ
大地に根づき おのれ自身のなかにいるマドリードよ
もしもそこに 待ち伏せする峡谷のように
深い ひろい 大きな塹壕が掘られるなら……
マドリードだけが 死をくい止めることができる
〈詩集『栄光の首都』(一九三六ー一九三八)〉
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