オルタ・デ・エブロの工場──分析的な形の交響曲 大島博光
一九〇九年の夏、ピカソは愛人フェルナンドとともにオルタ・デ・エブロを訪れる。十年前にひと夏を過した思い出の地である。彼はここで数点の風景画や肖像画を描く。前年彼はブラックとともに立体主義(キュビスム)の追求を始めていた。いままでの自然のコッピイにたいして、いまや、見る対象からうける感動を分析的に表現するようになる。この「工場」では、工場は幾何学的図形と面に分析され、裁断されていて、それら区切られた面、影の面、線などが、中央の煙突を中心にして、形体の交響曲を構成している。背景には、この地方にはない棕梠(しゅろ)が大きな葉をひろげているが、それも構図の要請によるのである。
その後、ピカソは「ヴォラールの肖像」「ウーデの肖像」など、あの切手の面の構成による有名なキュビスムの肖像画を描く。さらにピカソはアトリエに閉じこもって、テーブル、水差し、コップ、煙草の包み、ギターなどを、この
キュビスムの手法で追求する。やがて画面に文字がもちこまれたり、じっさいの新聞や木片や砂などの素材がもちこまれ、それはパピエ・コレ(貼り紙)と呼ばれる。フェルミジエは書く。
「ピカソが画面にもちこみ、実現しようとした物──あの古新聞、ギター、煙草の包み紙などは芸術家の日常生活にぞくする物である……この面ではキュビスムはレアリスムであり、パリのアトリエと貧乏な画家たちの民謡(フォルクロール)である……」
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