三(四つの章)
労作『フランスにおける内乱』は、四つの章からなりたっている。第一章では、パリの城門に迫ったドイツ軍を前にして、利己的な目的で権力を横領し、人民を欺いて「国防」政府の看板のかげで外敵と通謀し、自国民にたいする陰謀をめぐらしていたフランス・ブルジョアジーの政治家たちのいとうべき肖像画が、あざやかに描かれている。マルクスの鋭い、仮借ない筆致は、ティエールをはじめとする醜類を千載ののちまで曝し台に釘づけするのに十分である。
第二章では、ブルジョアジーが、祖国と革命を敵に売りわたす計画を実行する第一着手として、パリの労働者の武装解除を試みたことから、内乱が開始した次第、またその初期の戦況の推移が叙述されている。支配階級の標傍する愛国主義が侵略的野望の仮面以上のものではなく、自分たちの階級的利益を守るためには、彼らは平然として自国民の利益を裏切るということは、歴史上に繰りかえし実証されたことであって、その例は遠くに求めるにはおよばないのである。いつの場合でもそうであるように、ここでも真の愛国者は勤労人民であった。パリ・コミューンは、直接には、この国民的危機に面して、パリの労働者が、不利な状況をもかえりみず、国を救う唯一の手段として、みずからの手に国の運命をにぎり、国の防衛という国民的任務の遂行にあたろうとしたものにほかならなかった。マルクスが言っているように、「コミューンはフランス社会のすべての健全分子の真の代表者であり、したがって真に国民的な政府であった」(九一ページ)のである。
この著作の中心をなしている最も光彩ある部分は、パリ・コミューンの本質を分析し、コミューンの諸方策に深い解明をくわえ、そこから世界革命にとって最高度に重要な結論を引きだしている第三章である。パリ・プロレタリアートの英雄精神に感激し、また刻々に不利に傾く戦況を心をいためて見まもりながらも、科学者マルクスは、ブルジョアジーの卑劣、コミューン戦士の英雄的な闘争の経過を記録するにとどまらなかった。彼は、パリのこの運動が世界革命の一歩前進であり、数百の綱領や議論よりも重要な実践的一歩をあらわすことを、いちはやく見てとり、また短命のコミューンのあわただしいいとなみのうえに投影された未来社会の面影を、しっかりととらえたのである。
第三章に分析されたパリ・ミーンの経験は、まえのほうでもふれておいたように、レーニンの著作『国家と革命』の第三章で、さらに精密な分析に付され、いっそう具体的に展開されている。この訳書では、読者の便宜のために、巻末注解のなかに、最も基本的な箇所についてのレーニンの説明を引用しておいたが、本書の理解をふかめるために、読者が直接レーニンの右の著作の全体を合わせて研究することを、お勧めしたい。
- 関連記事
-
-
マルクス『フランスにおける内乱』 解説(三)四つの章 (3)当面していた課題 2021/06/04
-
マルクス『フランスにおける内乱』 解説(三)四つの章 (2)労働者階級の権力 2021/06/03
-
マルクス『フランスにおける内乱』 解説(三)四つの章(1) 2021/06/02
-
マルクス『フランスにおける内乱』 解説(二)普仏戦争にかんする二つの呼びかけ(下) 2021/06/01
-
マルクス『フランスにおける内乱』 解説(二)普仏戦争にかんする二つの呼びかけ(上) 2021/05/31
-
この記事のトラックバックURL
http://oshimahakkou.blog44.fc2.com/tb.php/4823-25e657bc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック