パリ・コミューンに関するマルクスの古典的著作『フランスにおける内乱』は、パリ・コミューン最後のバリケードが陥落した二日後に公表されました。この著作の意義について、翻訳した村田陽一氏が解説で書いています。
フランスにおける内乱 国際労働者協会総評議会の呼びかけ
解説
一
歴史上最初のプロレタリア革命であるパリ・コミューン(一八七一年三月一八日─五月二八日)が、新しい社会を創造する先駆的な大事業にその短かい生涯を燃焼させて、働くパリの灰燼のもとに滅んでいってから、早くも一〇〇年になる。マルクスの労作『フランスにおける内乱』は、海峡をへだてたロンドンにありながら、その全精神をあげてコミューン戦士とともに生き、感じ、たたかった大革命家マルクスが、倒れたコミューン戦士のためにきずいた不朽の記念碑である。
この労作は、第一インタナショナル(国際労働者協会)総評議会の、ヨーロッパおよびアメリカ合衆国の全協会員にあてた呼びかけとして書かれたもので、パリの最後のバリケードが陥落してからわずか二日後に公表された。殺戮され、投獄され、生きた墓場である熱帯の流刑場に送りこまれた一〇万のパリのプロレタリア闘士は、なおそのうえに、支配階級の憎しみと中傷と嘲りの洪水のなかで、殺人者、放火者、犯罪人の徒党として、道徳的にも葬りさられようとしていた。コミューンの先頭に立った英雄たちは、もとより生を期待してはいなかったし、死をもって自分たちの事業の正義を守りぬいたのであるが、その記憶がけがされたままになり、真実が山のような虚偽のもとに埋もれてしまったなら、死んでも死にきれない思いであったろう。このとき、だれよりも早く、だれよりも力づよく、大胆に、パリの戦士の名誉を擁護し、コミューンの歴史的真実を明らかにしたものこそ、マルクスのこの呼びかけであった。ここでは、終わったばかりの歴史的ドラマが、そのままの壮大さで再現されている。この著作の行間からは、虚偽にみちた、死んだ亡霊のブルジョア世界に対比して、プロレタリアのパリの輝かしい熱情、勇気、創造、その生命と真実、喜びと憎しみが、生き生きと浮かびあがってくる。この著作は、倒れた革命の戦士たちへの賛歌であり、血にまみれた奴隷主たちにたいする痛烈な抗議と告発の文書、プロレタリア的連帯と新たな闘争への大胆な呼びかけである。
しかし、この著作の意義は右の点にとどまらない。マルクスは、取り扱われている対象の偉大さにふさわしい、深い理論的内容をこの著作にあたえた。この書のなかでマルクスがコミューンの歴史的経験の分析にもとづいて引きだしている結論は、マルクス主義の国家学説、プロレタリア革命とプロレタリア独裁にかんする学説を飛躍的に前進させるものであった。このことは、五〇年ののち、十月社会主義大革命の前夜にレーニンが書いた、マルクス=レーニン主義の革命理論の集大成とも言うべき労作『国家と革命』のなかで中心的な位置におかれているものが、ほかならぬ『フランスにおける内乱』でマルクスがあたえたコミューンの経験の分析であること、また十月革命によって打ち立てられた新しいプロレタリア権力の形態、ソヴェトが、マルクスによって一般化されたかたちでのコミューンを原型としていることによっても、知られるであろう。
こういうわけで、この著作は、マルクス主義理論の発展史上の一里程標であると同時に、一九世紀最大のプロレタリア闘争の直接の所産である。
(つづく)
(カール・マルクス『フランスにおける内乱』 村田陽一訳 大月書店 一九七〇年一二月)
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