きみは そよ風のように 大島博光
きみは そよ風のように
峠を越えて やってきた
きみは 菜の花の香りや
朝霧にぬれて やってきた
花の蜜槽《みつぶね》のなかから
飛んできた 蜜蜂のように
きみと過した 冬の日は
雪のなかさえ 温かかった
きみと過した 春の日は
来る毎日が 祭りだった
歌が溢れ 酒が流れた
夢が湧いて 蜜が流れた
わたしの詩は 売れなかったので
きみは 花を売りに 行った
きみは そのたくましい手で
ひとつの星座を ささえた
*
きみは その身を弓なりにして
狂った若者を うけとめてくれた
きみの差し出してくれた手が
孤独から わたしを引き離した
きみの呼びかけてくれた声が
悪夢から わたしを呼びさました
きみの 春風の 微笑みが
わたしの絶望の氷をとかした
やっとわたしは 引き返えした
さまよっていた 愛の砂漠から
そうして わたしも見いだしたのだ
「生死を賭けるに足る現実世界《*》」を
注* アラゴンの言葉
一九八六年一月
(自筆原稿)
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