アントニオ・マチャードの帰還
──彼の死後十六年に
ラファエル・アルベルティ
ようこそ 川の父よ いまわたしにとどく
あなたのきのうの言葉 きょうの言葉が
よくひびき身に沁みる この孤独のなかで
よその国の海へとむかう 水の流れ《*1》を前に
あなたの言葉には火がある フランスの大地も
灰にすることができなかったあなたの骨のように《*2》
無傷に残った光と心 あなたの言葉は歌っている
その愛の歌で わたしたちを照らし鼓舞する
愛とは それは深い忘却とのたたかいであり
裏切る者にたいする死のたたかいであり
眠りながらも あけぼのの明けそめる海を見ようと
考えるものにたいするたたかいなのだから
あなたはわれらのために歌い 眼を大きく見開いて
あなたは 廃墟と化した祖国の城壁を見つめる
かつてあなたが 生を人生を夢みたところには
いたるところ 死者たち死者たち死者たちの群
きのうのように きょうも新しい侵略者どもが
あなたの生きた 聖なる家庭をふみにじっている
そして羊飼いたちは野から野へとさまよっている
異国の土地をほっつき歩く 逃亡者のように
かずかずの島々や 海の港や また波止場
深く入りくんだ入江や やさしい湾や
深い地下の鉱脈や 地下深く掘られた炭坑
また あなたがあんなに愛したすべての道
その道は いまやもう軍用道路でしかない
港も炭坑も もう爆撃されるためにしかない
そうして あなたのオリーヴ林の鳩たちももう
その翼のなかに 致命傷《ふかで》を負っているのだ
こんな大それた犯罪に 誰が記憶を閉ざすだろう
こんな悲しい喪に 誰が心を閉ざすだろう
あなたも あなたの声もはるか彼方の土のなかに
横たわっているが あなたの声は天までとどく
希わくば風があなたの言葉を伝え あなたの死から
多くの年が過ぎていようと あなたの言葉が
われらの情熱をかきたてて われらの腕の武器となり
われらが失ったエデンの園を奪い返すように
訳注*1 よその国へとむかう 水の流れ──ブエノスアイレスの川の流れ。
*2 フランスの大地も 灰にすることができなかったあなたの骨のように──コリウールの墓地のことを指している。
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