昭和22年10月に発行された文芸誌「肉體」第二号(ランボオ特集号)には大島博光が訳した「地獄の季節」「恋の砂漠」と論考「ランボオの芸術と生活」が掲載されています。「地獄の季節」は昭和18年4月に刊行された春陽堂文庫「地獄の季節」を改訳したもの。
編集後記
肉體第二号はランボオ特集号である。予定は全頁をランボオ研究で埋めるつもりであったが原稿が揃わず他の機会を待つことにした。
「地獄の季節」全文を思いきって掲載した。われわれは、そこにランボオの驚嘆すべき創造への意志と肉體との対決を、また眞の芸術というものは人生に光を求めながら炎の如く燃え狂う情熱と強烈な意志がなくては絶対に生れないことを感ずるのである。人生への問いを忘れ果てた個性のない私小説や虚構の彷徨が氾濫する日本文芸界は新たな眼をもってランボオを再読すべきであろう。そして、われわれの意図する「肉體」もまた決して単なるデカタニズムでもなく自虐でもないことを、更に六十年前書かれたランボオの作品を何故掲載したかを読者は考えて頂きたい。様々なる権威からのがれ、その作品の一つ一つが総て絕対自我の追求であり、自己の思考と生活を賭けてどうしても書かなければ居られないことだけを書いたランボオの作品こそ肉體の文学であり美の金字塔である。
われわれが雑誌「肉體」を発行するや予期した如くあわただしい賛否の批評がジャーナリズムを賑わした。日本という国はなんと言葉だけが幅を利かせる風土であろう。肉體を離れた思考のない言葉がどれ程、無力で意味がないかは、かつてファッシズム台頭の折、枯葉の如く散乱してしまった頭でっかちなインテリの書斎の言葉を思い出すがよい。
われわれは肉體を凝視しながら正直にこつこつと無限にひろがる人生を探求して行く。
このランボオ特集号には詩人大島博光氏が病床にもかかわらず「肉體」の意図を諒とされ、おそらく本邦未発表の「恋の沙漠」を新訳され、また「地獄の季節」を全面的に改訳された。氏のランボオ研究と共に精読されることを願う。
創作は中堅八木義德、新人渭原功両氏である。愛読を乞う。
なお「肉體」直接購読希望者は牛年分送料共百二十円御郵送願う。
(柳澤賢三)
(「肉體」第一卷第二号 昭和二十二年十月一日発行)
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