脅かされる勝利 ポール・エリュアール
大島博光訳
用心しろ生活の鏡は曇ってきた
血の最初の一歩が踏み出され一滴の血が流れれば
また戦争の血の火の
廃墟の砂漠の最後の行進だ
理性なき人間の終りだ
理性的な人間の終りだ
死だ惨めさの終りだ
圧制の終りだ
しかしまた可能性の終りだ
*
死に滅びてはならぬ生きねばならぬ
一組の恋人たちの歩いて行った足跡のうえに
草は芽を出し花々が名乗りをあげる
そうして人間たちの通るところどこでも
冬のなかに春の気はいが感じられる
錆はくさりのなかに融《と》け
群衆は幸福な群衆となり
子どもたちは地平そのものだ
平和は人間たちを若返えらせるだろう
*
おれたちはもう用心するなどと夢にも思わぬだろう
春が行き夏が来る雨が降り太陽が照る
秋はさわやかに冬は荒々しい希望
そうして空間と時間の
すべての国境のうえで
人間たちは兄弟のように結ばれ
おんなじ日の出とおんなじ日の入りがある
春がきて夏になり秋になり冬が来る
終りない生活のこだまと照り返えし
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