(自筆原稿)
マドリードで開かれたチリ連帯国際会議に参加したあと、博光はグラナダ観光に向かった。
『大島博光全詩集』の「カスティリヤの野」では、ジャック・白井の部分がなくなり、最後に次の部分が追加されている。
この不毛の荒地を見れば
わかろうというものだ
十七世紀
ユカタン半島のマヤを食い荒し
インカの皇帝アタワルパを食いちぎり
チリのアラウコに襲いかかったのは
このカスティリヤの野の狼どもであり
エストラマドーラの豚飼いピサロであった
この不毛の荒地を見れば
かれらの飢えのほどがわかろうというものだ
*アルベルティ「国際義勇旅団の歌」
カスチリヤの野 大島博光
マドリードから グラナダヘ
おんぼろ列車は あのサンチョ・パンザの
驢馬のような啼き声をあげて
カスチリヤの荒野をのろのろ走る
背の低い 根株の畝《うね》をつらねた葡萄畑
これも背の低い オリーヴ畑
その赤茶けた荒地のなかに ぽつんと
屋根の抜け落ちた 煉瓦の廃屋《あばらや》
そのむかし 人民戦線の兵士たちが
あの 国際義勇旅団の兵士たちが
「同じ根から生れた同じ夢《 *》」を抱いて
倒れていった 石ころだらけの野
報道写真家ロバート・キャパが撮った
「倒れる兵士」の映像が そこにある
銃を手に 生から死へと倒れこむ
よろめきの一瞬を定着した映像──
日本人義勇兵ジャック・白井《**》も
この野のはてに 眠っているはずだ
墓石もなく 花束を供える人もなく
日本プロレタリアートの赤い心臓を埋めて
ミルクと パンと りんごしかない
粗末な列車のビュッフェで ボーイは
首を手のひらの刃でたたいてみせた
自由の話などすると 首があぶない──
やがて風景はさらに荒涼としてくる
もう見渡すかぎり 赤茶けた砂漠だ
人家ひとつ 緑ひとつ見えない
時たま 飛ぶ鳥の群れが見えるばかり……
一九七八年十一月
* スペインの詩人ラファエル・アルベルティの「国際義勇旅団の歌」の中の詩句。
** ジャック・白井は国際義勇旅団リンカン大隊にぞくし、一九三七年七月十一日、ヌエバ・デ・ラ・カニャーダ村で戦死したといわれる。三十七歳であった。
この記事のトラックバックURL
http://oshimahakkou.blog44.fc2.com/tb.php/4492-33b98bd9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック