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ランボオ「都市Ⅰ」

ここでは、「ランボオ「都市Ⅰ」」 に関する記事を紹介しています。



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(ランボオ「イリュミナシオン」 自筆原稿)

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 都市 Ⅰ          アルチュール・ランボオ 大島博光訳

 これこそ街だ。これら、夢のアルパジャ山脈やリバンの山が民衆のためにそそり立っている。水晶や木造の別荘が、目に見えない滑車やレールのうえを動いている。巨像や銅の棕櫚の木にかこまれた古い噴火口が、燃えさかる火のなかで、音楽的に吼えている。別荘のうしろがわにかかった水道のうえでは、恋の祭りがにぎやか音をひびかせている。鐘の音が、せまい谷まのような道で、鳴りあい、叫ぶ。歌手たちの巨人の一隊が、山の峯をそめる光りのような、燃えるような赤旗や衣装をつけて群らがっている。深みのまんなかの、プラットフォームのうえでは、ローランのともがらが、その勇ましい軍楽をかき鳴らしている。深淵にかかった橋のうえや、宿屋の屋根のうえには、燃える空がマストを旗で飾っている。崇拝者たちが一せいにくずおれる高みの野では、天使のような牝の人馬《サントウレス》が、雪崩《なだれ》のなかを進んでゆく。そのうえの、もっと高い頂上の線上には、海が、ビイナスの永遠の誕生でざわめき、男声合唱団の舟を浮べ、真珠や妙《たえ》なるほら貝のざわめきをたたえている。海はときどき、死の輝やきで暗くかげった。山の中腹では、まるでおれたちのところの武器か円水盤のような、大きな花々の刈りいれで鳴りどよめいている。焦色のきものや乳いろの着ものをきた妖精の女王たちの行列が、谷あいの道をのぼってゆく。そのうえの方、瀧といばらのなかに足をふみいれて、鹿がダイアナの乳を吸っている。郊外では、バッカスの巫女《みこ》たちがすすり泣き、月は燃え、わめく。ビイナスは鍛冶屋の隠家のほら穴へはいってゆく。むらがりそびえている鐘塔のかねの音は、民衆の思想をうたっている。骨できずかれたお城からは、未知のあやしい音楽がもれてくる。あらゆる伝説がくりだし、大きな鹿が町のなかをはねまわる。この賑やかな騒がしい楽園がくずれさると、やばん人たちがおやみなく、「夜の祭り」を踊る。そこで、おれもひととき、このバグダッドのにぎやかな並木道へおりていった。そこでは、無数の会社が、新しい労働のよろこびを歌っていた。おれは、なまぬるいどんよりした風のなかを歩きまわったが、山々の奇怪な幻影からのがれることができず、どうしてもまたそのまえにめぐり出てしまうのだった。

 この土地は、おれになんと心地よい腕をかしてくれ、たのしいひとときを与えてくれたことか。おれはそこで眠りこけ、また少しばかり動きまわったのだ。 (『イリュミナシオン』)
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