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歴史を繰り返さないために(「反戦・詩人と市民のつどい」閉会の挨拶)

ここでは、「歴史を繰り返さないために(「反戦・詩人と市民のつどい」閉会の挨拶)」 に関する記事を紹介しています。

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(「第4回 反戦・詩人と市民のつどい」実行委員長 閉会の挨拶)


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  歴史を繰り返さないために    長田三郎

 みなさまの中には満州事変が始まった当時のことを、ご記憶の方もいらっしゃると思います。昭和六年、私は広島の小学校の六年生でした。そのころの世の中は不景気ではあっても、ある意味で平和な時代だったと思います。国民の知らないあいだに戦争が準備され、九月十八日突如満州で戦端が開かれ、十五年戦争の泥沼にのめりこんでいきました。出征兵士を見送るために、学校から宇品の港に引率されて行ったことを覚えております。
 それから十年経った昭和十六年、私はまだ学生でドイツ語を勉強したりサッカーのボールを蹴ったりして、普通の学生生活を送っておりました。十二月八日の早朝、突然ラジオから軍艦マーチが流れ、その後幾百万の日本人に死をもたらした太平洋戦争が開始されたのです。
 将来日本列島が核兵器の戦場になることは、満州事変や太平洋戦争よりも、もっと想像し難いことかもしれません。しかし想像し難いことは、決してそのことが起こり得ないという保証にはならないと思います。
 それと同時に、もう一つ申し上げたいことがあります。昭和二十年八月六日午前八時十五分、最初の原子爆弾が広島に投下されました。その時私は前線に出ておりましたが、広島の爆心地から一六〇〇メートルの地点にありました私の家では、父と弟が重傷を負いました。私が申し上げたいことは、きわめて明白なことではありますが、広島や長崎の悲劇は決して天災でもなければ自然現象でもなかったということです。人間が原爆を作って、人間の頭上に叩き落としたのです。だからわれわれ人間の力は、原爆をやめさせることもできるし、戦争を防ぐこともできるはずです。人間は「核」を克服できるし、また克服しなければなりません。人間は歴史によって作られつつも、また歴史を作っていく存在です。核兵器を廃絶し戦争を阻止し得るという新たなページを、歴史に書き加えなければならないと思います。
 みなさまの中には「きけわだつみの声」の映画をご覧になった方もいらっしゃると思います。あの映画の中で、大学でフランス文学を教えていた大木二等兵のせりふにこうあります。
 「戦争が起こらないうちに、なんとか出来なかったでしょうか。河合さんが問題になった時でも、また間に合ったかも知れません。なぜもっと積極的に河合さんをみんなで擁護しなかったのか。(これは東大を休職になった河合栄治郎教授のことですが…。)私はじっとしていられないような憤りや焦りを感じながら、それをつきつめてもみないで、自分だけの世界にとじこもってしまったんです。卑怯だったんです。抵抗しなければいけないことも分かっていたんですが……。」
 それからもう一人、軍国主義反対の学生運動をやって逮捕され、兵隊に取られて万年一等兵だった河西一等兵のせりふにこうあります。
 「こんな所で、こんなザマで捨てる命なら、なぜ、あの時、命を賭けなかったんだ――何もかも後の祭りだ。」
 こうして二人とも死んでいきます。将来核戦争が起これば、北半球の生物は絶滅すると科学者は警告しております。後の祭りになってはいけません。ふるさとの緑の山河をわれわれの子孫に遺すためにも、戦争を繰り返してはいけません。広島や長崎の悲劇を二度と繰り返してはなりません。歴史を繰り返してはいけないと思います。
 昭和十八年四月一日、私は松本の連隊に入りましたが、同年兵はサイパン島に征って全滅しました。実は今日、その戦友の一人田中彌八君のお姉さんにこの席に来て頂いております。田中彌八君は戦前まで上田市横町にありました菊与亭という料亭の令息で、日本医大に在学中に応召し、松本の連隊で私と親しくしておりましたが、サイパン島に出撃したまま帰って来ません。その田中君のお姉さんが、わたくしどものこの反戦のつどいにご出席くださいましたことに、厚く御礼申し上げますとともに、死んだ戦友に代って反戦平和のために私の余生を捧げることを誓います。
 今日は詩の会でもありますので、松本の連隊を描いた私の拙い詩を読ませて頂いて、閉会のご挨拶に代えたいと思います。前線では戦死者が出ますと、屍衛兵を立てて遺体を守りましたが、内地の部隊でも前線から遺骨が帰ってまいりますと、屍衛兵を立ててお通夜を営みました。

(「花梨」へつづく)

(『信州白樺』61・62・63合併号 特集「反戦・反核を訴える詩人たち」 1985年2月13日)




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