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「勘太郎月夜唄」──ある兵卒の追想

ここでは、「「勘太郎月夜唄」──ある兵卒の追想」 に関する記事を紹介しています。


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(「信州民報」1993.3.19)

すすき




 「勘太郎月夜唄」──ある兵卒の追想    長田三郎

「影か柳か功太郎さんか
伊那は七谷《ななたに》糸引くけむり」

武蔵野の老人病院で
看護助手のおばさんが
仕事の合間に
この唄を歌っているのを聞いて
五十年前を思い出した

一九四三年四月 松本連隊に入った時
同年兵に 浅草で芸人をしていた男がいて
演芸会の席で いつも美声を張りあげて
この唄を歌っていた
おれもメロディーはすぐに覚えた

一期の教育が終わると
この部隊は仏印へ進駐し
おれは連隊の基幹要員として残留した
それきりだ

同年兵達は 生きていれば
七十歳以上になる
一九二〇ー二三年生まれは
「決死の世代」と呼ばれる
戦死者の数が突出して多いからだ

その時から五十年経って
自衛隊の兵士達が
瘴癘の地カンボジャに派兵されて征った
見送る母や妻や娘の頬に伝わる涙
宰相の笑顔──

愚かな歴史が繰り返され
権威に弱い国民は無関心だ
昔は「天皇陛下ノ命ニ依リ」
今は「国連の決定に依り」
すべての武力行使が正当化される

「捨てて別れた故郷の月に
しのぶ今宵のほととぎす」

看護助手のおばさんが歌うのを聞いていて
おれは五十年前を思い出した
「おれにとって
戦争はまだ終わっていない」
「おれたちの 青春にとって
あの戦争は何だったのか?」
おれは いつか涙を流していた

反歌
歴史より教へらるるはただ一つ
人は歴史につひに学ばず
       (一九九三・三・五)
 【注】仏印はベトナム


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