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『地獄の季節』(2)「言葉の錬金術」について

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「言葉の錬金術」について

 『地獄の季節』を、ランボオの作品の頂点とみなすとすれば、また「錯乱」の第二部をなす「言葉の錬金術」は『地獄の季節』の中心軸をなすともいえよう。

「聞いてくれ。おれの気狂い沙汰のひとつの物語。
もう永いこと、おれはありうるあらゆる風景をわがものにしたと誇ってきた。……
……おれは母音の色彩を発明した……おれはおのおの子音の形と動きを調整し、いつの日か、あらゆる意味にとれる詩的な言葉を発明できると思い込んでいた……
……おれは単純な幻覚に慣れていた。おれははっきりと見た、工場のかわりにモスクを、天使たちの太鼓の学校を、空の街道をゆく四輪馬車を、湖水の底のサロンを……」

 ランボオはここで、彼がそれまで考え出してきた自分の詩法、実践してきた自分の詩法と詩について回想し、そこに風変りな自己批判を加えている。その詩法とは「見者の詩法」と呼ばれるものであった。それはランボオの社会的・道徳的反抗に対応する、芸術の分野における反抗、詩的反抗の試みであった。「生を変える」希望を託したパリ・コミューヌは潰えさった。彼は詩の分野で「生を変える」ためには詩的形式を変えねばならぬと思いいたった。こうして「あらゆる感覚の錯乱」は極限にまでおしすすめられた。そこに工場があった。モスクが現われた。アルコールによる酩酊のなかの時間と空間……やがてモスクは消え、そこにあるのは相変らず工場でしかない。何ひとつ変らなかった。何ひとつ修正されなかった。あの未知への追求も、いまやばかげたものであることが、はっきりとしてきた。それは、「気狂い沙汰のひとつの物語」であり、いまや愚行でしかなかった。そして、「いと高き塔の歌」「飢え」「おお季節よ おお城よ」などの詩を並べて回想したあと、この「言葉の錬金術」はつぎのまことに簡潔な一行によって締めくくられる。
「これは過ぎ去ってしまったことだ。おれは今日美を讃えることを知っている」──
この一行のあざやかな歯切れのよさは、その後のランボオの沈黙の、あの思い切りのよさに通ずるもののようである。
 なお、この一行について、アラゴンが加えているあざやかな論評──ランボオの本質をつく論評をここに引用しなければなるまい。
 「……もしランボオの考えでもって現代の美学を明らかにするつもりなら、その決定的表現がみつかるのは「見者の手紙」のなかでではなくて、「地獄の一季節」のなかの『言葉の錬金術』と呼ばれる部分にあるのだ……。
 『言葉の錬金術』は重要なテキストであるから、その主張するところをよく理解し、受け入れる必要がある。その主張とは、ランオがただの一行に縮めようとしたものである。彼の『気ちがい沙汰』をのべた六ページのあとに来る一行、『これは過ぎさってしまったことだ。おれは今日美を讃えることを知っている』である。詩人の永遠の沈黙を前にしてのこの短い言葉は、いまわれわれの手もとにある『季節』の草稿にある数語によって解き明かされるものである。この一行だけしか残さなかったという過程、彼の思考の草案というものは次のとおりだ。

『こんなに弱ってしまって、おれはもう社会のなかで生きて行けないような気がする……
それはだんだん過ぎ去って行った。
今ではおれは神秘な高揚や奇をてらった文体がいやになった。
今やおれは言うことができる、芸術はくだらないと。……
善イに敬礼!』

 『今ではおれは神秘な高揚や奇をてらった文体がいやになった』というこの一言は、『地獄の一季節」とイジドール・デュカスの『詩論』とが平行線にあることを承認するに十分である。これはランボオによって、ランボオ主義それ自体に対して向けられたもっとも激しい打撃のひとつであり、彼の過去を要約する最後の行文(これは過ぎ去ってしまったことだ。おれは今日では知っている...)の乾いた文言をいきいきとさせる一撃である。その後沈黙することになる人の最後のメッセージである、ここのところの行文を知らずして、ランボオの教えを行なうのだなどといえたものではない。一八七一年五月のデムニ宛の手紙を好むなどというのは幼稚きわまる話だ。……
……だからわたしは、まるで昨日かかれたもののように思われる『地獄の一季節』の最後のくだりを一種の満足なしに読むことができないのだ。……」(『アラゴン選集』第二巻二六九ページ、服部伸六訳・飯塚書店)
(つづく)

新日本新書『ランボオ』

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