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岩崎信子朗読「燕(つばくろ)」

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                          長田三郎
つばくろよ
遠い南の国から 今年も還ってきたつばくろよ
きかせておくれ
南十字星のかがやく異邦の便りを

かつて いくさの日
一兵として駆りだされた戦場は
虜因として過ごした彼の地は
今はどうなっているのだろうか

つばくろよ きかせておくれ
羽斑蚊(はまだらか)に襲われ流れこむ雨水につかり
疲れはてて泥のように眠った
洞窟の跡はどうなっているのだろうか
今は訪れる人もなく
雑草にうずもれてしまったのだろうか

輸送船の 蚕棚さながらに仕切られた船艙にこもる
 保革油と汗の酸(す)えたにおい
遠雷のようにとどろく砲声
眼下の水面すれすれに迫りくる双胴の敵機
肌につけた真鍮の認識票に刻まれた数字だけが
生きていることの証(あかし)だった虚しい日日――

雛を孵(かえ)し育てるために 遠い南の国から
今年も還ってきたつばくろよ
平和の巡礼よ
おまえたちは 聞かなかったろうか
牡蠣のついた岸壁に打ちよせる波のざわめきを
おまえたちは見なかったろうか
気が遠くなるほど澄みわたった南国の蒼穹(あおぞら)を
入江を見おろす丘の斜面に遺してきた青春の墓標を……

海


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