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『ランボオ』 ロッシュの農場──「悪い血」

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ロッシュの農場──「悪い血」



 ランボオとヴェルレーヌの同棲生活は、結局うまくゆかない。「気狂い娘」は「錯乱1」のなかで言う。
 「幾夜も幾夜も、あの人の悪魔がわたしをひっとらえ、わたしたち二人は転げまわり、わたしはあの人と闘ったものです……」
 二人の取っ組みあい、修羅場は、かれらの酒浸りの結果によるだけではなく、ランボオが「哀れな兄き」に抱いていた恨み、侮蔑によるものでもあった。激しいいさかいの後に仲なおりや優しさがもどってきても、もう二人ともこの耐えがたい生活をつづけることにどんな幻想を抱くこともできなかったにちがいない。それにまた経済的な切迫という問題も加わったであろう。

 一八七三年四月十一日聖金曜日、ランボオは予告もなしにロッシュの農場に帰ってくる。ちょうどランボオ一家が月初めから農場にきていた。妹ヴィタリは日記に書く。
 「みんなでいつものように部屋で片づけものなどしていた。妹と兄と母がわたしのそばにいた。そのとき遠慮がちに戸を叩く音がした。わたしが開けにゆくと……なんとびっくりしたことに、眼のまえにアルチュル兄さんが立っていた!」
 ロッシュはシャルルヴィルの南方四〇キロほどにある小さな農村で、アティニの駅から四キロのところにある。アルデンヌのこの地方は収穫の少い土地で、スレートぶきの家の小さな部落がそこここにあって、地平には伝説的な森がつらなっていた。睡蓮や葦におおわれたエーヌ川が青緑色に流れている……ランボオの母親はそこに親譲りの農場をもっていた。農場の家は十八世紀に建てられたもので、大きな入口は養鶏場に面していた。農場の家の一部分と附属家屋の大部分は普仏戦争で破壊されたままであった。その頃、一家は農作業の時だけシャルルヴィルからやってきて、その廃屋のなかに住んでいた。四月、五月は農場では猫の手も借りたい時である。しかしランボオは何ひとつ家族の手助けをしない。畑を鋤(す)くのは兄のフレデリックで、養鶏場の仕事は妹たちが受けもっていた。ランボオは畑仕事を手伝わずに、納屋にひとりこもって過した。働くのがいやだったのだ。『地獄の季節』の「悪い血」のなかに彼は書く。
 「おれはあらゆる職業が大嫌いだ。親方も労働者もすべての百姓もいやらしい。」
(つづく)

農場
ロッシュの農場


(新日本新書『ランボオ』)

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