2.飢えの祭り
二人の生活はヴェルレーヌの母親の送金に頼るだけで、みじめなものであった。生徒がみつかった時にはフランス語の家庭教師などもしている。その悲惨な生活は「飢えの祭り」のなかに反映している。
飢えの祭り
おれの飢えよ アンヌ アンヌ
おまえの驢馬で 逃げうせろ
おれに食い気が あるならば
ただ 土くれと 石ころだ
ディン ディン ディン 食ってやれ
空気を 岩を 石炭を 鉄を
おれの飢えよ ぐるぐる廻われ
音の鳴る牧場の 草を喰(は)め!
昼顔から
陽気な毒を しぼりとり
食ってやろう
貧乏人の砕いた 砂利を
教会堂の 古びた石を
洪水ののこした 石ころを
灰色の谷間に横たわったパンよ!
おれの飢えは 黒い空気の端(はじ)っこだ
鳴りひびく 青空だ
──身を引きちぎるような胃袋だ
それが おれの不幸なのだ
地のうえに 青草が現われた!
ふだん草の葉を 採りに行こう
畝(うえ)のなかに 摘みとろう
野萵苣(のぢしゃ)と すみれを
おれの飢えよ アンヌアンヌ
おまえの驢馬で 逃げうせろ
この詩の日付は「一八七二年八月」であるから、ベルギーをさまよっていた頃に書かれたとも思われる。しかし、S・ベルナールの注釈によると、ロンドンでランボオが眼にした石炭置場や鉄材などの風景に触発されたものとされる。とにかく季節は冬で、石や鉄ばかりの風景と飢えのなかで、詩人はみどりの春とその野菜を夢見ている。
(つづく)
(新日本新書『ランボオ』)
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