(5)詩人仲間からはじき出される
十一月の末、パリにランボオをたずねてやってきたドゥラエが彼をみつけたのも、このオテル・デ・ゼトランジェにおいてであり、そのときランボオはハシッシュ(大麻)を吸っていたという。
ランボオに会った者はみんな彼の年に似合わぬ無礼な、人の気にさわる振舞いをなじっている。クリュニィのカフェでひらかれた詩人たちの会合で、みんなが詩を朗読しているのに、ランボオは腰掛に長ながとねそべって眠ったふりをしたり、ぶつぶつ不平をならべたりした。
「彼が口を開くときは、火のようなコミュナールの呪詛を吐きだすためであった。コミューヌからまだ六カ月が過ぎたばかりで、怖るべき週間の思い出はまだみんなの心に生まなましく残っていた。」(スターキー)
一八七二年一月末、また例のパルナッス派の詩人たちの会食会で、食後の詩の朗読会が始まっていた。朗読される詩句ごとに、ランボオはテーブルの片隅から「くそっ!」を連発して、会席者は詩の朗読がききとれなかった。同席のひとりがランボオに黙るように激しく言った。写真家のカルジャが「ひき蛙め!」とののしった。ランボオも反撃に出て大騒ぎになった。みんながランボオの襟首をつかんで外につまみ出した。彼は携帯品預り所(クローク)で、出てくる会席者を待った。カルジャを見つけると、仕込み杖の鞘を払って斬りかかった。ヴェルレーヌがその武器を押さえつける。カルジャはかすり傷を負っただけですんだ。ちょうどランボオの肖像を素描していたフォランは、そのデッサンに、「君子危きに近寄らず」という皮肉な銘を書き添えた。ランボオはたちまちパリの詩人仲間からはじき出されることになる。もしも彼が何んらかの社会的野心をもっていたなら、おのれの一時の感情を抑えたはずだ。しかし彼は自分を抑制することができず、みんなが彼から離れて行った。ただひとり、ヴェルレーヌだけが友人として残った……。
(この項おわり)
(新日本新書『ランボオ』)
十一月の末、パリにランボオをたずねてやってきたドゥラエが彼をみつけたのも、このオテル・デ・ゼトランジェにおいてであり、そのときランボオはハシッシュ(大麻)を吸っていたという。
ランボオに会った者はみんな彼の年に似合わぬ無礼な、人の気にさわる振舞いをなじっている。クリュニィのカフェでひらかれた詩人たちの会合で、みんなが詩を朗読しているのに、ランボオは腰掛に長ながとねそべって眠ったふりをしたり、ぶつぶつ不平をならべたりした。
「彼が口を開くときは、火のようなコミュナールの呪詛を吐きだすためであった。コミューヌからまだ六カ月が過ぎたばかりで、怖るべき週間の思い出はまだみんなの心に生まなましく残っていた。」(スターキー)
一八七二年一月末、また例のパルナッス派の詩人たちの会食会で、食後の詩の朗読会が始まっていた。朗読される詩句ごとに、ランボオはテーブルの片隅から「くそっ!」を連発して、会席者は詩の朗読がききとれなかった。同席のひとりがランボオに黙るように激しく言った。写真家のカルジャが「ひき蛙め!」とののしった。ランボオも反撃に出て大騒ぎになった。みんながランボオの襟首をつかんで外につまみ出した。彼は携帯品預り所(クローク)で、出てくる会席者を待った。カルジャを見つけると、仕込み杖の鞘を払って斬りかかった。ヴェルレーヌがその武器を押さえつける。カルジャはかすり傷を負っただけですんだ。ちょうどランボオの肖像を素描していたフォランは、そのデッサンに、「君子危きに近寄らず」という皮肉な銘を書き添えた。ランボオはたちまちパリの詩人仲間からはじき出されることになる。もしも彼が何んらかの社会的野心をもっていたなら、おのれの一時の感情を抑えたはずだ。しかし彼は自分を抑制することができず、みんなが彼から離れて行った。ただひとり、ヴェルレーヌだけが友人として残った……。
(この項おわり)
(新日本新書『ランボオ』)
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