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ランボオ パリ(4)ピアノのレッスンと「母音」

ここでは、「ランボオ パリ(4)ピアノのレッスンと「母音」」 に関する記事を紹介しています。
(4)ピアノのレッスンと「母音」

 一八七一年十月末、シャルル・クロの提唱で、パルナシアンたちによって「無関心派サークル」というクラブがつくられ、その会合所が、サン・ミッシェル大通りとラシィヌ街の角にあったオテル・デ・ゼトランジェ(外国人ホテル)の四階に置かれた。クラブの支配人として音楽家のエルネスト・カバネが指名され、その助手にランボオがあてられた。彼は住居と仕事をみいだした。カバネは無類のお人好しで、ランボオも彼とはうまく折り合った。クラブには「無関心派アルバム」と呼ばれるサイン帳があって、みんながパロディや冗談や漫画などを書き込んだ。ランボオも大いにこのアルバムに協力している。カバネはそこにつぎのような歌を書いている。

  シャルルヴィルからやってきた
  詩人よ パリで何をする?
  行き給え ここでは天才が育たぬ
  舗道で 飢えて 死ぬばかり

  帰り給え きみを小さい時から
  世話してくれた お袋のそばへ

 このカバネはまた、オテル・デ・ゼトランジェでランボオにピアノのレッスンをほどこした。カバネは音階に色彩を与え、音階に母音の音をあてがった。この方法によってランボオはピアノの初歩を学んだ。──この頃書かれたとみられる有名なソネット「母音」は、このカバネの音楽教育の反映とみることができる。むろん、ボードレールの「万物交感(コレスポンダンス)」の詩法の延長上にある作品とみなすこともできる。

    母音

  Aは黒 Eは白 Iは赤 Uは緑 Oは青 母音たち
  いつかきみらの密(ひそ)やかな誕生を おれは歌おう
  Aは ぞっとする死臭のまわりを 唸り飛ぶ
  色鮮やかな蠅どもの毛むくじゃらの胴着(コルセット) 影の入江

  Eは 立ちこめる靄と テントの 純潔の白
  そびえ立つ氷山の槍先 王公の白衣 顫える傘形花(オンベル)
  Iは 緋色の衣 吐きだされた血 怒りに燃えて
  また悔恨に酔って 笑い狂う美女のくちびる

  Uは 循環 震えおののく 聖なる みどりの海
  家畜たちの放たれた平和な放牧場 錬金術が
  偉大な 勤勉な額に刻んだ 蒼ざめた平和の皺

  Oは つんざくように 響きわたる 至上のラッパ
  地上の世界と 天使たちのなかをよぎる沈黙
  Oはオメガ 「彼女の眼」の菫色の閃き!

 この詩の意図するところは、色彩の選択にあるのではなくて、なんの関わりもないかに見える物たちや現象のあいだの密かな交感(コレスポンダンス)を示すイメージを集めるところにあったと思われる。しかしこのソネットには、形而上学、精神分析、エロティスムなど、さまざまな光があてられ、さまざまな解釈が試みられた。しかし、ヴェルレーヌはきわめて単純明快な説明をくだしたのであった。ピエル・ルイスは「ヴェルレーヌの言葉」としてつぎのように伝えている。
 「ジィドがスプロネクの本を出して「母音」の有名なソンネをみせたとき、ヴェルレーヌは抗議していった。ぼくはランボオを知ってるんだから、彼はAが赤であっても緑であっても、どちらだって構わんと思ってたんだ。そんな具合だったんだ。何んてことないよ。ヴィヨンが言ってるだろう、あの話といっしょさ。
  だがあのスペインのお人好しの王はどこにいる?
  その名は忘れてしまったが」(服部伸六訳)
 「母音」制作のありようは、恐らくヴェルレーヌの言ったとおりであったろう。
(つづく)

(新日本新書『ランボオ』)

ホテル
オテル・デ・ゼトランジェ

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