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コミューヌが敗北して (4)ジュリアン・ソレルの同族

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(4)ジュリアン・ソレルの同族

 ランボオはこの詩でコミューヌの翌日を描き、弾圧後のコミューヌ戦士たちの復讐の念をうたっている。

  おれたちの復讐の行進はすべてを占領した/都市も田舎も!
  ──だがおれたちは粉砕され、火山は爆発するだろう!
  そして大洋は荒れ狂い……

 破壊的な幻想はこんどは宇宙的な領域にひろがる。ランボオは黙示録的なイメージで、爆発する火山、大異変を起こす大洋を想い描いている。
 最後の四行は、破壊的な幻想の頂点を示している。友人だと信じて疑わない「見知らぬ黒ん坊たち」への呼びかけ、崩れかかる「古い大地」。ぐらぐらと揺らぎ崩れかかる大地のうえで狼狽してはならぬ――それがこの最後の詩句の意味でもあろうか。
 最後につけ加えられた一行は、破壊的な幻想と悪夢から醒めて、ふたたび現実に返り、我に返ったことを示している。

  何んにも起りはしない おれはここにいる 相変らずここにいるのだ

 絶望はいっそう深いのである。
 それにしても「見知らぬ黒ん坊たち」にまで兄弟たちと呼びかけても、それは心情のうえの兄弟でしかない。十六歳から十七歳にいたる早熟な少年がともに革命を語る兄弟は、ドゥラエのほかひとりもいなかった。そして生き残ったコミューヌ戦士のほんとうの兄弟たちの多くはニュー・カレドニアに流刑され、あるいは追及をのがれてロンドンに亡命していた。たとえば、ランボオより二十歳ほど年上のジュール・ヴァレースも、「血の週間」から九死に一生を得て、ベルギーを経てロンドンに亡命する。彼は、その亡命中に、自分の不幸な生いたちの記『少年』を書き、一八八〇年、コミューヌ関係者にたいする恩赦令が出ると、パリに帰って、かれの体験的コミューヌ史ともいうべき小説『蜂起者たち』をまとめる。この小説の主人公ヴァントラスは、反抗者ヴァレース自身の反映である。アラゴンは『スタンダールの光』のなかで、この反抗者ヴァントラスを『赤と黒』のジュリアン・ソレルの後継者として論じている。
 「……世紀の進むにつれて、かつてジュリアン・ソレルの徒であったものが、ジャック・ヴァントラスの徒となることは、だれの目にも明らかであろう」「……歴史の論理はジュラのしがない木こりの倅からジャック・ヴァントラスの反抗へとつながるのである。……ヴァントラスの黒衣、つまり十二月二日のクーデター後の黒衣とは、貧民のすり切れた着物である。彼はヴィルメッサンの『フィガロ』紙では、青年層にむかって、ミュルジェ風なボヘミアン生活には憧れないようにと忠告する。一八三〇年の青年と、七月、二月の二つの革命のあいだに記入される歴史をもつ青年とのあいだには大きなへだたりがある。だが、彼らは精神的同族なのである。」
 ランボオは小説の主人公ではない。だが、アルデンヌの農婦の息子ランボオも、ジュリアン・ソレルやジャック・ヴァントラスの精神的同族であり、しかも怖るべき詩的天才を与えられた同族であったといえよう。
(この項おわり)

(新日本新書『ランボオ』)

軽井沢
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