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灯の歌

ここでは、「灯の歌」 に関する記事を紹介しています。


灯の歌

夜




 灯の歌          大島博光

夜のくにに夜がくる.
夜の町に夜がくる

焼け跡のバラック小屋も
場末の灰いろのアパートも
その窓の一つ一つに灯《ひ》をつける

厚い ふたえの夜にむかって
その窓の一つ一つが灯をつける
おなじひとつの闇を裂こうと

その灯し火の一つ一つが
卵もくるみもない食卓を照らしている
風に鳴る破れ戸を照らしている

その灯し火の一つ一つの下に
一つ一つの愛がある ため息がある
一つ一つの苦しみがある ねがいがある

夜の闇よりもこころ暗い女たちがある
夜の深さを見つめる娘たちがある
夜明けの光りを用意する若ものたちがある

その灯し火の一つ一つの下に
きょうを生きぬいた疲れがある
働いても働いても食えぬ怒りがある

明日の天気を気づかうひとたちがある
悪夢にうなされるひとたちがある
眠ろうにも眠れないひとたちがある

その灯し火の一つ一つをふるわせて
異国の爆音がうなり
探照燈が夜空を区切る

そうしてその灯し火の一つ一つの下に
眠っている憎しみがある
めざめている怒りがある

その灯し火の一つ一つを見つめながら
わたしは夜のなかを歩いてゆく
わたしも一つの灯をともそうと

夜のくにに闇は厚くとも
夜の町に夜は深くとも

   ──一九五二年一月九日──

   (『角笛』二号 一九五二年二月)





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