*グエン・ゴック──「子供」のグェン・ゴックは一九三二年、南ベトナムの田舎に生まれた。一九四六年以後高原地帯の少数民族が結成した人民解放軍に加わり、宣伝隊兵士として、また従軍記者として、山の村を歩きまわった。一九五五年、実在のバーナー族の抵抗戦士メッブを主人公とした長編小説『山の英雄ヌップ」(邦訳名「不敗の村」世界革命文学選二八)を発表して文芸一等賞を受け、作家としての才能をあらわした。また、たくさんの物語と短編小説を書いた。
「子供」は、一九五四年のジュネーブ協定によって北へ集結した、南部出身の解放軍の一隊長と、やはり南部生まれで、北へ引き揚げる部隊に託されてきた孤児の物語。戦争で妻と小さな娘とを失ったグエンは、そのことを、その悲しみを、部隊の誰にも打ち明けずに、ひとり耐えている。彼は、訪ねて行った小学校で、小さな女の子に会う。ほかの子供たちは、迎えにきた親たちと楽しそうに行く。しかし、その小さな女の子には誰も会いに来ない。女の子は戸口にもたれて、悲しそうに立っている。作者の筆は、これらの場面を、豊かな情感をこめて、生き生きと描いている。とりわけ親に迎えられて「ぴょんびょんとびはねながら」駆けてゆく子供と、「ませた様子で、……子供らしくもない悲しみに」目をくもらせた子供との対照のあざやかさは、ひとの心を打たずにはいない。──ここにも、戦争は、くろぐろとした深い影を落としているのである。しかし、人間は、その豊かな人間感情は、それらに打ち勝って前進するだろう。この作品は、そのような人間信頼を、しずかに、人間の深部にふれる描写で、歌いあげているといえよう。
(ベトナム短編小説集『サヌーの森』大島博光・荒木洋子訳 新日本出版社 1968年)
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